私の恋人は口下手だ。おまけに無愛想。
真選組副長としてバリバリ働く彼に自由な時間は少ない。数ヵ月会えないことも珍しくない。それはいいんだ別に。いやよくはないけども、そういう土方さんを私は好きになったわけだし。でもさでもさ、たまに会ったときくらいもうちょっとハシャイでくれてもいいんじゃなかろうか。
土方さんは大人だし、ああいう性格だし。っていったらそれまでだけど。時々、本当に時々、不安になる。土方さんも、会いたいなあとか会えて嬉しいなあとか思ってくれてるのかなって。
だからこの間一緒にご飯を食べたとき、お酒の力を借りてちょっと聞いてみた。土方さんって私のどんなとこが好きなんですかーって。


「…土方スペシャルをすげェ美味そうに食うところ?」


ズッコケそうになった。


「どう思います?山崎さん」
「どうでもいいと思う」
「なんかそれって、結局は私が大事なんじゃなくて土方スペシャルが大事なんじゃないかって気がしてしょうがないんですよね、ていうかそうなんですかね、どう思います?」
「心底どうでもいいと思う」
「ちょっとーちゃんと聞いてくださいよ山崎さん。お団子サービスしたんだから」


お団子の最後のひとつを口に入れた山崎さんが、しまったというような顔をする。そりゃそうですよ。話聞いてくれるのを期待してのサービスですよ。微笑みながらお茶を注ぐ。


「土方さんはお元気ですか」
「元気だよ。会ってないの?」
「全然会ってないです」
「会えばいいのに」
「でも忙しいでしょ土方さん」
「まあね」
「いいんです、元気なら」
「えー、ほんとに?」
「いや会いたいですけど!めっちゃ会いたいですけど!」
「そうやって言えばいいのに、副長にも」


呆れた表情でお茶を飲み干す。湯飲みを置いて、私の顔を覗きこんだ。


「ひとつ、いいこと教えてあげようか」
「え!」
「団子のお礼ね」


ちょいちょいと手招きする山崎さんに、ドキドキしながら耳を近づけた。









店仕舞いを済ませ、店長に挨拶をして外に出る。すっかり暗くなって人はまばら。雲の隙間から覗く月の下をのんびり歩く。遠回りして帰ろうかなぁとか考えながら。
なんか、無性に土方さんに会いたくて。山崎さんと話したせいだ、きっと。でもその時にこっそり教えてもらった「いいこと」のおかげで、昨日よりも足取りは大分軽い。


「オイ、お前」


軽やかに歩いてると突然、背後から聞こえてきた低い声。一瞬ビクッと震え上がる。だけど直後、その声は柔らかく緩んだものに変わり、肩の力が抜けると同時に心臓が騒ぎだした。


「なにフラフラ歩いてんだ」


まさかと思いながら振り返る。月明かりに照らされた土方さんがそこに立っていて、何かがぶわっと込み上げてくるのを感じた。


「ひ」
「ひ?」
「土方さーーん!!」


思いのままに全速力で駆け寄った。その勢いに目を丸くする土方さん。でもそんな視線も今は気にならない。


「会いたかったです、すっごく会いたかったです」
「そーか」
「どうしたんですか?こんなところで」
「巡回中。お前は仕事帰りか?」
「はい」
「じゃ、家まで送ってってやる」
「いいんですか!?」
「一般人の安全を守るのも仕事だからな」


相変わらずもっともらしいことを言う。でも、それでも嬉しい。だってこれ、デートみたい。デートとか!何ヵ月ぶりだろ!無意識にスキップの体勢に入ってたけど、隣から訝しげな視線を向けられていることに気付いて、自分を抑えこんだ。危ない危ない。
私のすぐ隣を歩く土方さん。本物の土方さん。ふんわり漂ってくる煙草の匂いとか、鋭い横顔とか、当たり前だけど全部そのままでなんだか嬉しくなる。


「こうやって二人で話すの久しぶりですね!」
「そうだな」
「会ったら言おうと思ってたこといっぱいあったんですけどね、全部忘れちゃった」
「なんだそれ」
「会えただけでなんかもう胸がいっぱいで」
「……」
「あ。赤くなってます?」
「なってねーよ!」
「チェッ」


意地っ張りだ。知ってたけど、意地っ張りだ。そんなとこも好きだ。でもたまには私の思惑に乗せられてみてほしい。


「ねえねえ土方さん」
「ん」
「寂しかったですか?」
「…ハイ?」
「会えない間」


足を止める。つられて土方さんも止まる。頭上で、雲が晴れた。


「私は、すっごく寂しかったです」


私の半分でも、10分の1でもいい。土方さんも私に会えなくて寂しいって思ってたらいいのに。早く会いたいって思ってたらいいのに。


「…お前って…直球だよな」
「そうですか?」
「だがお前のそういうとこも、俺は」
「俺は?」
「……」
「……」
「………」
「好きだなー、って?」
「うるせェ黙れ」


土方さんの手が伸びてきて、私の体を引き寄せる。割れ物を扱うように抱きしめられた。心臓がドキドキと大きな音を立てる反面、気持ちは不思議と穏やかだ。
全身から、土方さんの想いが伝わってくる気がした。言葉には寂しさを埋めるパワーがある。でも言葉以上に、寂しさを埋めてくれるものもある。忘れかけてたことを思い出させてくれたのは、この腕。


「副長、巡回のときよくこの店の前通るんだよ」
「え、本当に?」
「心配みたい、君のこと」


昼間の山崎さんとの会話を思い出した。気持ちがさらにフワフワと浮上する。
土方さんも寂しかったんですね。会えないときも想ってくれてたんですね。今、幸せだなって感じてくれてるんですね。


「あの」
「なんだ」
「土方スペシャルを美味しそうに食べない私でも、好きですか」
「は?あたりめェだろ」


心底不思議そうなその声に、抱きしめられたまま思わず笑った。
私、ずっと土方さんの隣にいられるように頑張ります。だから、目を逸らさないでくださいね。ふたりずっと想い合って、恋をしていくために。


1.28

- ナノ -