今年初めての雪が降った。それはどんどん積もっていき、見慣れたいつもの道もきらきらと白く光る世界に変わる。
そんな景色にはしゃいでしまうのは仕方ないよね?子どもは風の子元気の子だもん。


「というわけで、雪だるま作ろっか」
「どういうわけだ」
「俺は早く帰ってコタツでミカン食いてーんだけど」
「銀時ジジくさい」
「雪だるまとか…ガキかよ」
「ぶつぶつ言うな!」


誰もいない野原。真っ白に染まった野原。村塾からの帰り道、私たちはそこへやって来た。というか私が引っ張ってきた。同じ村塾に通う銀時、小太郎、晋助を。


「なんなのアンタたちは。何でそんなやる気ないの」
「むしろ何でお前はそんなやる気なんだよ」
「いつもと違いすぎるだろう様子が」
「だって雪だよ!初雪!そりゃこんな感じになるよ!」
「アホらし。俺ァ先に帰るぜ」
「あれ。晋助もしかして自信ないの?」


公園の出口へと歩きだした晋助にそう言うと、ピタッとその足が止まる。不機嫌そうにこっちを向く晋助に薄く笑ってみせると、ざくざくと雪を踏みながら私たちの方に戻ってきた。


「すごい雪だるま作る自信ないんでしょー」
「んなことあるわけねーだろうが。とりあえずコイツには負けねェ」
「コイツじゃない桂だ」


晋助と小太郎の間に火花が飛び、同時に座り込んだかと思えば黙々と雪だるまを作り始める。


「相変わらず扱いやすい奴だよな、高杉は」


隣で小さく呟いた銀時に、私は深く深く頷いた。







「俺の雪だるまの方がでけェ」
「いや俺の雪だるまだ」
「俺だ」
「俺だ」


みんなで雪だるまを作り始めてからどれくらい時間が経っただろうか。自分の身長よりもでっかい雪だるまを作り上げた小太郎と晋助が、さっきからこんな調子で言い合っている。


「おい、お前はどう思う」
「もちろん俺の勝ちだよなァ?」
「ええー?もうどっちでもいいじゃん」
「なんだと」
「それより私の見て見て。可愛いでしょ、可愛さでは一番だよね私が」
「それこそどうでもいいんだよ」
「なんですと?」
「あ?やんのか」
「あーあーやめなさい!ったくもうアンタたちはァ!」


お互いに掴みかかろうとする私と晋助の間に、お母さん口調の小太郎が割って入る。ふん、とそっぽを向くと、地べたに座り込んだままのふわふわ銀髪が目に入った。


「まだ作ってんの、銀時」
「ん?もう出来た」
「…って何これ」


満足げな銀時の視線の先には、どう見ても雪だるまには見えない物体がある。


「これ?おまえ」
「…なんかすごく歪なのは気のせい?」
「いやー本物に忠実に作ってたらこうなっちまって」
「……」


無言で雪玉の投げ合いを始めた私と銀時の間に、またお母さん口調の小太郎が割って入る。そして私たちの投げたふたつの雪玉がちょうど小太郎に直撃した。けど見ないふり。


「は…っくしゅん!!」


そんな空気を破って盛大に飛び出したのは、私のくしゃみ。銀時からの雪玉攻撃が止まって、呆れたような目が私に向いた。


「くしゃみしてやんの」
「うるさいな」
「もっと厚着してこねーからだよ」


そう言いながら、銀時は自分の巻いていたマフラーを外して、私の首にぐるぐると巻きつける。


「これでよし」
「それではまだ足りないだろう。これも巻いておけ」
「俺のも巻いてやらァ、しょうがねェからな」


小太郎と晋助も、自分のマフラーを私に巻きつける。私の首には3人のマフラーがぐるぐると巻かれた状態になった。


「…あの、暑い…ていうか苦し…」
「あァ?暑いくらいでいーんだよ」
「さてそろそろ帰るか」
「早くコタツでミカン食いて〜」


白い息を吐きながら、先に歩き始めた3人が足を止めて、立ち止まったままの私の方に振り向く。


「早く来ねーと置いてくぞ」


めんどくさそうにそう言いながらも待っていてくれる3人のところへ、緩む口元を隠すこともなく、私も走っていく。
変わらないものなんてないのかもしれない。でも、ずっとこんな風にいられたらいいな。首の暑さがなんだかすごく幸せに感じた、ある冬のこと。


6.27

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