人間は何のために産まれてくるんだろう。偉業を成し遂げるため?幸せになるため?大勢の孫に囲まれて天寿を全うするため?宇宙の海賊王になるため?
私の今までの人生を振り返ってみると、団長のために産まれそして生きてきたと言っても過言ではないだろう。そしてこの感じでいくと私はきっと死ぬまで団長にこき使われ、団長のために生きていくことになるんだろう。
そんなのは真っ平御免だ!!私は私のために生きてやる。私の思うように生きてやる。というわけで私は家出します、さようなら団ちょ


「どこ行くの」
「ぐえッ」


突然後ろから首根っこを掴まれ、乙女にあるまじき声を出してしまった。聞き慣れた声に全身から汗を噴き出しながらゆっくりと振り返る。そこにはいつも以上に美しい笑顔の団長様がいらっしゃった。


「…こ、こんばんは〜」
「もう明け方だけどね」
「…おはようございま〜す」
「うん、おはよう。で、どこ行くの」
「いやえっとあのその…朝の清々しい空気を吸いながらジョギングでもしよっかなみたいな」
「そんなでっかいカバン持って?」
「……」


サッと両手を後ろに回す。やばい、カバンが大きすぎて体からはみ出してしまう。


「言っとくけど、ナマエの考えてることなんか全部お見通しだから」
「な、なんのことやら」
「逃がしはしないよ」


さっ帰ろうか。爽やかにそう言って、団長は私の首根っこを掴んだまま歩きだす。首が絞まってます団長。そろそろ私死にます団長。


「まったく家出しようとするなんて、一体何が不満なんだか」
「丸々全部ですよコノヤロー」
「わかんないなあ。こんなに可愛がってあげてるのに」


ハッ、どこが?鼻で笑ったら髪を掴まれた。


「いたたたたたた」
「その不細工な顔やめようね」
「わかりましたからいだだだだだ」


満足そうに手を放す団長。すっごい痛いんですけど。毛根が悲鳴をあげてるんですけど。くっそマジで覚えてろよクソヤロ


「いってェェェ!なんで!?なんでほっぺたつねるんですかァァァ!私なんも言ってないじゃん!」
「ん?ああごめんごめん、なんかクソヤローとか聞こえた気がしたから」


怖い。もうこの人ほんと怖い。もはやエスパーじゃん。思考の自由さえ私にはないんですか、ないんですね。


「家出とかさ、そういう腑抜けたことやらかす部下はいらないんだ。そのうち殺しちゃうからね」
「……」
「返事は?」
「はひ」


よし、と笑って私の両頬を掴んでた団長の手が勢いよく離れた。私のほっぺた、5cmくらい伸びたなたぶん。


「ま、諦めなよ」
「はい?」
「たとえうまく逃げ出せたって、ナマエは結局ここに戻ってくるんだから」
「…ええ〜?」
「俺のところにね」


お前のことなんて全部お見通しだって言っただろ。そう言った団長は、いつもとは少し違う顔で笑う。

全部お見通しか。確かに、エスパー団長のことだからそれもあり得なくない。恐ろしいことに。
でも今回の家出未遂もまったくの無駄ではなかった。気づいたことがある。それは、私は昔からいつだって、自分のために、自分の思うように生きているってこと。今さらそんなことがわかるなんて、バカだなーと思うけど。


「ねえ、朝ごはんにアレ作ってよ。ナマエの得意料理だろ、ぐちゃぐちゃのおにぎり」
「毒盛ってやろうか」


団長のために呼吸して、戦って、生きていく。
それが、私のために生きるということ。


6.1

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