「やっぱさ、たまにはわかりやすく表現するのも大事だと思うわけ、オレ的に」


ひらひらと枝から落ちる葉っぱを見送ってから、真面目な顔をしている隣の田島を見た。
いきなり何を言い出すんだろう。確か私達は、好きなおかずは最初に食べるか最後に食べるかって話をしてたんじゃなかったっけ。

図書館の裏の小さな公園。テスト勉強を図書館でやっていた私達は、田島の集中力がそろそろ切れ始めたので、この公園に休憩がてらやってきた。
古ぼけたベンチに座って、先ほども言ったように好きなおかずを食べるタイミングの話をしていたのだ。そこに突然、冒頭のあの言葉。田島の話があちこちいくのはもう慣れたけど、一体何の話をしているのかをすぐに掴めない私は、田島の彼女としてまだまだだなあと思ったりする。


「いっつもそうじゃないとダメだってわけじゃねーよ。でもたまにはさ、いるじゃん。そーいうのも」
「あの、ちょっと待って田島」
「ん?」
「何の話?」
「だからー、好きだぜ!ってたまには相手に言わねーとって話!」
「す…?」


予想外の話題だった。そんなますます暑くなるような話はやめてほしい。ただでさえ、天気が良すぎてちょっと汗ばむくらいなんだから。


「な、言ってよ」
「ええ!?」
「オレのこと好き?」
「そ、そ、そそそんなのこんなとこじゃ言えな…」
「えー、いーじゃん!誰もいねーし」
「むむむムリムリムリ」
「しょうがねえなー」


えい!と言って強引に私を抱きしめる田島。突然のことに、私は目を丸くして、田島の腕の中で体を硬直させることしかできない。


「た、たじっ、たじま!」
「なに?」
「ここ、外!」
「だから誰もいねーって!」
「そういう問題じゃ」
「なあなあ、言わなくていいから、やってみ?」
「え」
「オレのこと好きーって気持ちこめて、思いっきり抱きしめてみて」
「え、えええ…」
「ほれギュー!」


私の腰に腕を回したまま田島の体が少し離れ、キラキラと輝く瞳で見つめられる。私、弱いんだよなあ。田島のこの目に。
こうなったらもはや恥ずかしいことなんてない。半ばヤケクソな気持ちで田島の背中に腕を回し、ギュー!と思いっきり抱きついてやった。


「ぬうう」
「おっ、ガンバってる!」
「超全力だよ!」
「オレ愛されてるなーって気持ちになってきたー!」
「そりゃーよかった…」
「でもまだまだだなー」
「えええ」
「オレの方がスゴイもん」


田島の顔は見えないけど。ニッコリと、いつもの顔で笑った気がした。


「うりゃ!」
「…っぎゃー!いいい痛いぃぃぃ!」
「あ、わりぃ!」


さすが男の子だと感心してしまうような、体がミシッて音を立てそうな、そのくらい強い力で抱きしめられる。思わず私があげた叫び声に、田島は慌てて腕の力を緩めた。


「わりーわりー、つい全力が」
「死ぬかと思った…」
「ごめんってー。でも伝わっただろ?」
「え?」
「おまえが好きだって気持ち!」


そう言って無邪気に笑うから、それ以上文句も言えなくて、素直にこっくりと頷く。
真っ赤だぞーとからかってくる田島に、アンタのせいでしょと言い返そうとした私のすぐ近くを、ベビーカーを押す若い夫婦がクスクスと笑いながら通りすぎた。さらに顔が熱くなる。…どこから見られてたんだろう。


「なあなあ肉まん買いにいこうぜー!」


テスト勉強は全然終わってないというのに、奴の頭からはきっともうそんなこと綺麗さっぱり消え去ってるんだろうな。まあそういう私も、テストのことなんかどっか飛んでっちゃってるわけだけど。


「私ピザまんにする」
「じゃあ一口交換!なっ」


でもまあ、なんか幸せだから、いっか。



10.16
title:メソン

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