「ねえ」
「ん?」
「私達、いつまで浜辺でお城つくってるの?」
「……」
「いい加減泳ごうよ」


そうだなあ、なんて言いながら手はまだ砂に伸びている。彼女の視線が痛い。
自分でも思う。どこまで砂の城を豪華にするつもりなんだろうか。もういいだろオレ。さっきから子ども達の視線も突き刺さってることだし。

田島と三橋は着いた瞬間、若者らしく海に飛び込んでいったというのに、オレと彼女はまだ浜辺で砂いじり。熟年夫婦か。いや熟年夫婦って砂いじりすんのか?その前に、オレと彼女は付き合ってすらいないわけだけれども。


「ねーハマちゃんってば。泳がないの?」
「んー」
「もしかしてカナヅチ?大丈夫だよ、浮き輪あるから」
「や、泳げるけどさ」
「もー!じゃあ早くいこ!」


彼女が勢いよく立ち上がり、羽織っているパーカーの砂を払う。そしてオレを引っ張り起こして、一緒に荷物を置いているところへ向かった。
そこでは休憩中なのか、さっきまで海に入っていた泉がいて、オレ達に気付くとひらひらと手を振った。


「お前らまだ海入ってなかったのかよ」
「ハマちゃんがお城づくりに夢中になっちゃって。でも今から入るよー」


ニヤリと笑った彼女が浮き輪を掴み、そういえばこれ脱がなきゃ、と呟いてパーカーに手をかけた。


「あ!」


思わず上げてしまった大声に、彼女と泉が同時に飛び上がる。


「うっせーな、何だよいきなり!」
「あ、いや…ごめん。ちょ、ちょっとお前こっち来て」
「え?」


彼女の手首を掴み、引きずるようにして歩いていく。ある程度歩いたところで立ち止まり、彼女の方に向き直った。


「…あのさ」
「なに?」
「それ、脱ぐの?」
「それって…これ?」


着ているパーカーを掴む彼女に、こっくりと頷く。


「脱ぐよ。海入れないじゃん」
「いやまあ、うん…そうだよな」
「なんなの?」


彼女の眉間にシワが寄る。うわやばい、そろそろ怒るかも。


「あのーだから、な」
「なによ」
「あーもうわかってねーなあ…」


危ないだろ、いろいろ。若い男連中も多いんだし。だってお前その下ビキニじゃん。ヘソも足も丸見えじゃん。どうすんの、ナンパとかされたら。
そりゃ別にオレは彼氏でも何でもないけどさ、やっぱり大事な女の子をそういう目には遭わせたくないというか。いや、ていうか危なくないようにオレが守ればいいのか。そうか、そうだよな…。


「…あの、ハマちゃん」
「は?」
「聞こえてるから、全部」
「え!」


頭の中で呟いていたつもりの言葉は、全部口に出ていたらしい。頬をうっすら赤く染めた彼女に、オレまで顔が熱くなる。こんなはずじゃなかった。


「ていうかそんなの、わ、私だって一緒だし」
「一緒?」
「ハマちゃんだって裸でしょ。上半身」
「オレは男だからいいの」
「そんなの関係ないよ。ハマちゃんが水着の女の子に誘惑されないか、私だって心配なんだから」


ムスッとした顔で、ぼそぼそと彼女が口を動かす。オレにとってはそういう表情やら全部込みで可愛く見えてしまうのだから、不思議だ。


「…でも、そろそろちゃんと見てほしいんだけど」
「え」
「ハマちゃんどんなのが好きかなーって考えながら、買った水着なんだから」


頭の中が沸騰してるみたいだ。この恐ろしいほどに可愛い彼女はやっぱオレが守ってやらねーと。その、彼氏として。とか思ってんだけど、どうかな?
その笑顔が答えだって、思ってもいいかな。


9.13

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