不気味な音楽が流れ終わるのを確認して、DVDを取り出す。隣でクッションを抱きしめて俯く彼女に目をやった。


「オイ、終わったぞ」
「……」
「おーい」
「……う…」
「泣いてんの?」
「泣いてないっ!」


顔を上げた彼女に睨みつけられた。あっそ、と軽く返して頭をポンポンと撫でてやる。



「暑い」


事の発端は数時間前のこと。夕飯の材料を2人で買いに行ったときの彼女のそんな一言だった。


「暑いよ隆也」
「夏だからな」
「スーパーでアイス買っていい?」
「こないだ買ったのがまだ残ってんぞ」
「2個食べるもん」
「腹冷やすからダメ」
「ケチ」
「ケチじゃない」
「あー何か涼しくなることないかなー」


唇を尖らせて足元の小石を蹴る彼女の言葉に、オレはすかさず反応した。


「じゃああれ借りて帰ろうぜ」
「えー?」
「ホラー映画」


一瞬、彼女の表情が固まった。


「いや、でもそれは」
「なに?」
「暑いことの根本的な解決になってないっていうかなんていうかつまりその」
「…もしかしてお前、こえーの?」


ニヤリと笑ってそう言うと、「全然怖くないし!!」とムキになる。そんな彼女に引っ張られるようにしてスーパーとレンタルビデオ屋に行き、ホラー映画(と、彼女希望のクレヨンしんちゃん)を借りて帰ったのだ。
まあそんなわけで一緒に作ったしょうが焼きを食い、クレヨンしんちゃんの映画見て、そのあとホラー映画鑑賞会を開いて今に至るわけである。



「もうこんな時間か」


DVDを仕舞って壁に掛かった時計に目をやると、もう日付が変わる時間だった。


「そろそろ帰るか?送ってくけど」
「え。いや、あの」
「なんだよ」
「…と」
「ん?」
「とまっ」
「とま?」
「泊まってっちゃ…だめ?」


クッションで口元が隠れてるから若干声がこもってたけど、確かにそう聞こえた。普段なら向こうから滅多に言わないそれ。ものすごく恥ずかしそうに言うもんだから、ちょっと笑ってしまった。


「いいよ」
「…アリガトウゴザイマス」
「こちらこそ」
「は?」
「や、こっちの話」


こいつがいることだし、久しぶりに風呂に湯ためるかな。立ち上がって風呂場へ向かう。気配を感じて振り向くと、後ろに彼女が立っていた。


「なに?」
「…いや、気にしないで」


そう言って壁から体を半分覗かせ、オレをじっと見ている。気になるっつの。
とりあえず風呂を入れる準備をして、また部屋へ戻る。その間も一歩後ろをチョコチョコとついてくる彼女。テレビの前に腰を下ろすと、オレにぴったりくっついて彼女も座った。
怖がり。そんで、変なところで意地っ張り。高校の時から変わんねーよな、ほんと。


「トイレ行くときはついてってやるから安心しろって」
「…バカたかや」
「涼しくなっただろ」
「そりゃあもうね、1人じゃ寝られないくらいにね、アホウ」
「計画通りだよ」
「は」


そう、計画通り。笑って、怖がりな彼女の唇にキスをした。


8.17

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