放っておいたら夏休みの宿題が終わらない部員数名とマネージャー。それを見かねた和さんが招集をかけた。和さんの監視の下で、強制的に宿題をやらせようというわけだ。
野球してる時の集中力はどこにいったのかと聞きたくなるくらい、勉強に関してはそれが持続しないのが招集された私たちなわけで、


「ジャンケンで負けた奴が全員分のアイス買ってこようぜ」


勉強会が始まって間もなく、そういう話になった。ちなみにお金は後払いらしい。外はいい天気、じっとしてるだけでも汗が流れ出る真夏日。そんな中コンビニまで行くのは誰もが嫌だ。
だから全員が本気でジャンケンして、その結果、予想通りというか何というか負けたのは利央。ご愁傷さまです、と心の中で手を合わせ、私はコンビニへ向かう利央を見送った、…はずだった。


「何で私も来なきゃいけないわけ」
「まーまーいいじゃん」
「よくない!暑い!」


怒ってみるけど暑さは変わらない。隣ではヘラリと気の抜けた顔の利央。こいつに無理矢理連れ出されたのだ、せっかくジャンケン勝ったのに。
汗が流れるのを感じながら、私たちはようやくコンビニに辿り着いた。その涼しさに肌がスーッと冷えていく。子どものように目をきらめかせて真っ先にアイスコーナーに向かう利央に慌ててついていく。


「何人だっけ。9人?テキトーに選べばいっか」
「そだね」
「…えーっと…あのさあ。相談があるんだけど」
「相談?」
「…お金、貸してくんない?」


ちょっと様子をうかがうように、綺麗な色の瞳がこっちに向いた。なるほど、納得した。だから私を連れてきたわけだな。


「いくら持ってんの?」
「120円」
「は!?120円!?」
「うん」
「アンタねえ。小学生だってもっと持ってるよ」
「ごめんってば〜」
「もーしょうがないなあ…」


一応持ってきていたカバンを探って財布を取り出す。それを開いて中を確認した私は、一瞬自分の目を疑ってしまった。


「あれ」
「え?」
「……」
「なに、どしたの」
「……200円しかなかった…」
「……」


立ち尽くす私たちを嘲笑うかのように、ガラスの壁の向こう側でセミがうるさく鳴き始めた。







「バカじゃねェのお前ら」
「そうなんですバカなんです利央は。120円って…」
「人のこと言えないだろぉ、200円!」
「利央よりは多いじゃん!」
「あーもううるせェ。心配しなくてもお前ら2人ともバカだから」


はあ、と大袈裟にため息をつきながら、私たちに呼び出された準さんがポケットを探る。さすがやっぱり、先輩って頼りになるなあ…。しみじみ思いつつ、利央と一緒に準さんを見つめる。が、何か様子がちょっとおかしい。


「……」
「準さん?」
「どうしたんスか」
「…忘れた」
「え」
「まさか」
「財布忘れた」
「……」


ガラス越しに響くセミの鳴き声が、さらに煩さを増した気がした。







それから10分くらいが経っただろうか。今、私と利央と準さんの前には、呆れた表情の和さんがいるのだった。手に、9人分のアイスが入った袋をぶら下げて。
和さんの呆れた顔はこれまで数えきれないほど見てきたけど、この和さんは今までで一番呆れた顔をしてる。ように見える。


「お前らなあ…」
「はい…」
「世話が焼けるにも程があるだろ、ったく」
「だって準さんが!」
「そう!準サンが!」
「お前ら、なに他人のせいにしてんだよ」
「ワアアアぶたれる!準さんにぶたれる!」
「助けてェ和さん!」
「逃げんなコラ!」
「いい加減にしろよお前ら!アイス溶けるからさっさと帰るぞ」


そう言ってさっさと1人で歩きだした和さんを、走って追いかける。すぐ後ろから利央と準さんも追いついてきた。
帰ったら、思いっきりバカにされるんだろうなあ。慎吾さんとか山さんとかに。そんなことを考えながら、照り返しの厳しいアスファルトの上を歩く。

影の取り合いでケンカになって、また和さんに怒られて。汗びっしょりの私たちの上で、真夏の太陽は少しの容赦もなくギラギラと輝いていた。



8.7

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