「あーもー無理!」


突然声をあげたと思ったら、拗ねた顔でごろんと床に寝転んでしまう。私はシャーペンを置いて、そんな田島を覗きこんだ。


「ちょっとー、まだ1時間しか経ってないよ」
「1時間もやっただろー」
「もー!赤点とったら試合出れないんでしょ?」
「うーーん」


返ってくるのは生返事。一緒にテスト勉強しようって言ってきたのは田島なのに、もうこれだ。集中してる時はほんとスゴいのに。
日焼けした腕が私の腰に巻きついてくる。甘えてる?こういう時の田島ってかわいいよなあ。誘惑に負けそうになる心を抑えながらその腕に触れてみた。クーラーの効いた部屋に、絡みつく体温があったかい。


「一緒に昼寝しようぜ」
「ダメだってば」
「ケチ!」


ケチじゃない!恐い顔をしてみても無駄だった。腕を巻きつけたまま私の服に顔を埋めて、こっちを見もしない。このやろ。
完全に集中力なくなっちゃってるな。田島に赤点とられたら、私だってみんなだって困るのに。


「…テスト頑張ったら、何でも言うこと聞いてあげるから!」


どうしても言うこと聞かないときはそう言ってみ。以前、泉に言われたこと。それを最後の手段で言ってみた。効果があるのかどうかはわからない。どうなの泉、大丈夫なのコレ。言ってみたものの不安は増すばかり。
だけどその直後、田島がガバッと勢いよく起き上がったものだから、驚きで私は一瞬固まってしまった。


「……ホントに?」
「…ほ、ホントに」


至近距離で無言のまま見つめ合う。何なんだと思いつつ、強い瞳から目が離せない。1秒が10秒にも20秒にも感じる。どうしよう。
と思ったら、目の前の彼はくるりと体の向きを変え、机に向かってシャーペンを動かし始めた。田島の言動はいつだって突然だ。


「…た、田島?」
「オレすっげーやる気出た」
「あ、そう?」
「おー!」
「…変なこと考えないでよね?」
「変なことなんか考えてねーよ」
「ほんとにぃ?」
「でもやらしーことは考えてる」


それを私は変なことって言ってるんだけど。少し恥ずかしくなりながら、呆れて心の中で呟く。
私も勉強再開しよ。ノートを開いて向かいに座ると、田島はシャーペンをくるくると回しながら無邪気に笑った。


「テスト頑張って、キス100回してもらおっかなー」
「え!?」
「何でも言うこと聞いてくれるんだろ」
「いや、まあ…」
「キスよりスゴいことしてくれてもいーけどな!」
「…バカ田島」


俯いてしまった私の顔を、照れてんの?とか言いながら田島が覗きこむ。
そして不意打ちで触れた唇に、今度は私の方が勉強どころじゃなくなっちゃったんだから、ほんともうどうしようもない。



7.25
title:メソン

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