「こーすけ見て見て!」
「あ?」
「じゃーん」


オレは口を開けたままその場で固まった。
さっきまで普通の服を着ていたはずの彼女は、なぜかチアガールの格好をしていた。部屋からこそこそ出ていったからどこへ行ったのかと思ってたら、これに着替えてたらしい。


「……」
「孝介」
「…え、何?」
「何か反応してよ。恥ずかしいじゃん」
「あー、いいんじゃねーの」
「心がこもってない!」


頬を膨らませながらそいつがオレの隣に座る。今までチアガール見たって別に特に何も思ったことなかったのに、自分の彼女がこういう格好してると何というか、また違った感覚が生まれる。


「つーか何だよその格好」
「チアガール」
「それはわかるけど。なんで?」
「私も次の試合からチアに参加させてもらうことになったんだよー」
「そんなん聞いてねーぞ」
「だから今言ったでしょ」


手に持っていた漫画の内容なんてもう少しも頭に入んねェ。ミニスカートから伸びる白い足。嫌でも視線はそこへ向く。


「短すぎじゃね?」
「え?」
「スカート」
「チアなんだからこんなもんだよー。一応ボクサータイプのパンツ重ねばきしてるし」


そーいうことじゃなくてだな。オレとしては面白くねーわけだ。そりゃそうだろ、自分の彼女の生足が他の男共の視線に晒されるんだから。つーかそんくらい言わなくてもわかれ、アホ。
はあ、とため息をつくと、首を傾げながらそいつはオレを見た。無意識に手が伸びる。太股にぴたりとオレの手が触れると、そいつはビビビッと体を揺らしてオレの頭のてっぺんにチョップをかましてきた。


「いってえ!何すんだよ!」
「あ、いや、思わず…ていうかそっちこそ何すんの!」
「いやなんとなく」
「はあ?」


目を細めたそいつがオレをじろじろと睨むように見てくる。


「こーすけ目がイヤラシイ」
「…あのなあ」
「なに」
「わかってんのかわかってねーのか知らねーけど、その格好で人前に出るってことは男共にそういう目で見られるかもしんねェってことなんだからな」
「ないでしょ、そんなん」
「あるっての。チアやるなとは言わねーから、そんくらいの危機感は持っとけ」


はあ、と納得いかないと言いたげな顔でそいつは緩く頷く。その直後、何か閃いたように目をキラッと輝かせた。


「つまり、心配なわけだよね?」
「は?」
「私がそういう目で見られるのが嫌なんだ」


かわいいなあ、孝介。そう言ってふてぶてしく笑うそいつに、オレは小さく舌打ちする。
だって、他の奴が見られないところを見ることができるのも、触れることができるのも、オレだけの特権だろ。そうだよ、とでも言うかのように彼女が微笑むから、もう一度その太股に触れてみる。今度はチョップが飛んでこなかった。


「くすぐったい」
「なんか、スベスベだな」
「…これは私だけだよね」
「あ?なにが」
「孝介に触れてもらえるのは、私だけの特権なんでしょ」


こいつはたまに、突然こういうかわいいことを言うから心臓に悪い。
まったく困ったもんだよ。これ以上、オレを夢中にさせてどうするつもりだ。



7.12

- ナノ -