いつもと変わらない昼休み。お弁当を食べ終えてトイレに行った帰り道、ハマちゃんとばったり出会った。屋上に行くというので、私もついていくことにする。教室に戻ったって、田島たち野球部の面々はどうせ寝てるはずだし。
屋上は、珍しく誰もいなかった。私とハマちゃんは隣り合って地べたに腰を下ろす。フェンスにもたれてぽつぽつととりとめのない話をしていると、空を見上げていたハマちゃんが、そういえばさあ、と私に目をやった。


「最近お前らしょっちゅう放課後にどっか行ってねェ?」
「お前ら?」
「お前と田島」
「ああ、うん」
「どこ行ってんの」
「秘密基地」
「ひみつきち?」
「田島がいい場所見つけてくるからそこで遊んでんの」
「小学生かよ」


ヘラリとハマちゃんが笑う。私たちがもたれているフェンスが揺れて小さく鳴った。


「お前ら仲いいなあ」
「仲は確かにいいけどねー」


仲がいいだけじゃダメなんだ。複雑な気持ちが表情に表れたのが自分でもわかった。私の気持ちを知っているハマちゃんは、それを見て苦笑いを浮かべる。


「恋する乙女は大変だなー」
「黙れ浜田」
「…お前最近、泉に似てきたよな」


苦笑いのまま私を見るハマちゃんにニッコリと笑顔を返す。その時、屋上の扉が開く音がした。


「あー!何やってんだよ2人で!」


噂をすればなんとやら。そこにいたのは、今まさに私たちがしていた話の中心人物、田島だった。コンビニ袋を揺らしてバタバタと駆け寄ってくる。


「おーす田島」
「こいつを独り占めしようったってそうはさせねーぞ浜田」
「いや別に独り占めしたくねーし」
「なんだとこらハマちゃん」


じろりと睨む私から目を逸らしつつ、ハマちゃんは私の隣に座った田島を見た。


「田島が昼休みに起きてるなんて珍しいよなあ」
「ほんとほんと」
「何かあったのか?」
「あ、そーそー!こいつにコレ見せようと思って」
「私に?なに?」
「じゃーん!」


自慢気に笑いながら、田島が私の目の前に何かを差し出す。それはよく見ると、たけのこの里だった。この間、食べてみたいよねと田島と盛り上がった、期間限定りんご味。


「あー!これ探してたやつ!どこに行っても売り切れで」
「昨日たまたま見つけたんだよなー」
「えー、いいなあ」


私も欲しかった。羨望の目を向ける私に笑顔を向けて、田島の手が持っていたコンビニ袋を探る。そしてまた、私の前に何かを差し出した。それは、2箱目のたけのこの里。りんご味。


「え」
「ちゃんとお前の分も買ってきてるって!」
「…た、田島…」
「あ、浜田の分はねーよ」
「ああそう。いいけどね別に」


そう言いながらも拗ねたような顔をするハマちゃん。そんな様子を気にすることもなく、田島は再び私に笑いかける。


「秘密基地で一緒に食べよーぜ!」
「うん!私、秘密基地6がいい」
「えー、オレは秘密基地2の気分なんだけど」
「お前ら一体いくつ秘密基地持ってんだよ」


呆れたようなハマちゃんの声を聞き流して、あらためてたけのこの里を見つめた。
ずーっとコンビニやスーパーを探し歩いたのに見つからなかったりんご味。ほとんど諦めかけてたのに、やっぱり田島ってすごい。しかも、私の分まで買ってきてくれるなんて思わなかった。


「ありがとう田島。やっぱり田島はすごいね」
「だろー。嬉しいか?」
「嬉しい!幸せ!」
「そっか!ったくかわいーなあお前は」


自然と浮かぶ笑顔を向けると、田島は満足げな表情を見せて、私の頭をぐしゃぐしゃと乱暴に撫でた。髪の毛を直しながら、なに言ってんのと小さく呟く。本当は嬉しいのに、不機嫌な声になってしまって少し後悔した。


「だってかわいいんだからしょーがないだろー。一家にひとり欲しい!持って帰ってもいい?」
「いやいやそんな一家に一台みたいなこと言われても」


嬉しいような恥ずかしいような。顔が赤くなってる気がして、それを見られないように私は俯く。だけど。


「なんか妹みたいでさ、すげーかわいい!オレ下の兄弟いないからなー」


あ、ちなみに三橋は弟みてーだよなー!無邪気な笑顔でそう言う田島に、私の思考は一瞬固まった。
まあ、わかってたけれども。何とも言えない表情を浮かべた私は、同じく何とも言えない表情を浮かべたハマちゃんと目が合う。

教室に戻ると、「まあ…アレだ。頑張れ」と同情するようにハマちゃんに声をかけられたけど、私は力のない笑顔を返すしかなかったのだった。先は長い。



4.11

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