健康だけが取り柄なんだよね!いつかそう言った時に、ああバカは風邪ひかねーもんなって返してきたのは誰だったっけ。あ、榛名だった。


「…はあ」


熱が出たのは昨日の夜。今日は学校に行けなかった。薬を飲んで寝たらだいぶ気分は良くなったけど、やっぱりまだボーッとするなあ。吐く息も何だか熱い気がする。
体調が悪いと心まで弱くなるんだろうか。1人で寝てたらやることなくて暇だし何だかすごく寂しくなっちゃって、寂しいよーって榛名にメールした。普段そんなこと言わないのにな。まあいまだに返事はないわけだけれども。バカ榛名。

枕元の時計を見る。そろそろ野球部の練習も終わった頃だろうか。ああ私、こんな時でも榛名のことばっかり考えて。嫌だな。あいつは風邪ひいた彼女のメールに返信もしないっていうのに。
何だか目が冴えて意味もなく天井を見つめてると、玄関の方が少し騒がしいことに気づいた。階段を上る足音がして、それは私の部屋の前で止まる。ゴンゴンと乱暴なノックの音の後、私の返事も待たずにドアが開いた。


「……何でいるの?」
「いたらワリィのかよ」


唇を尖らせた榛名が、ベッドへと歩いてくる。なんだコレ幻覚?混乱しながらも起き上がろうとする私を彼は片手で制した。


「寝てろバカ」
「バカってなによ、…何でいるのこんなとこ」
「見舞いにきてやったんだろーが」


ズイッと私の目の前にコンビニの袋を差し出す。そして微かに表情を緩めた。


「お前の好きなプリン買ってきてやったぞ」
「あ、ありがとう…3個も」
「まだ熱あんの?」
「どうだろ。測ってない」
「どれ」


榛名の顔が、鼻の頭が触れそうなくらい近づく。突然のことにびっくりする私を気にも留めず、榛名はおでことおでこをくっつけた。


「……」
「…あの、ちょっと…はる」
「よくわかんねーな」


パッと離れて立ち上がる。あまりのアッサリっぷりにズッコケそうになった。なんか、振り回されっぱなしなんだけど、私。1人でドギマギしてバカみたいだ。


「しんどくねーか?」
「う、うん。大丈夫」
「腹減ってねェ?プリン食うか?あ、飲みもんもらってきてやろうか」
「あ、じゃあ食べようかな…プリン」
「じゃあちょっと待っとけ、開けてやる」


…なんか、榛名が優しい。榛名じゃないみたい。私が風邪ひいてるから?だとしたら風邪ひいてよかったかも、なんて不謹慎なことをちょっと考える。


「うまい?」
「うん」
「お前いっつもそれ食ってるもんな」
「ふふ」
「早く治せよ。あんま心配させんな」
「心配したの?」
「あ?…そりゃーまあ。するだろ」
「でも、メール」
「は?メール?」
「返してくれなかった」
「ああ、忘れてた」
「……」


まあ、そんなことだろうとは思ったけど。私の寂しいよメールを“忘れてた”って。忘れないでよ。結構勇気だして送ったのにさ、なんて憎たらしい奴。


「なんだよ、いじけてんのか」
「別にぃ」
「しょうがねーだろ、部活だったんだよさっきまで」
「そりゃそうだけど」
「部活終わってからはお前のことばっか考えてたんだからいーだろうが」


榛名の言葉に、のろのろとプリンを口に運んでいた手を止める。


「…え、ほんとに?」
「おー。部活終わって飛んできたっつーの」


そんな慌ててどっか行くのかって聞かれまくって大変だったんだからな。そう言ってわざとらしくため息をつく榛名。急いで着替えてる榛名の様子を想像したら、ちょっと笑ってしまった。


「なに笑ってんだ」
「イテッ!もー!病人に普通デコピンとかする?」
「病人の割には元気だけどな」
「榛名が来たから元気になったの」


榛名は一瞬目を丸くして、にやりと意地の悪い笑みを浮かべる。そして私の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。


「…お前ってたまに可愛いよな」
「たまに、は余計だから」


乱暴なくせに、優しい。そんな矛盾したこの男の存在自体が、悔しいけどやっぱり私の元気のもとだと思うのだ。



1.11

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