「なーなーお前らクリスマスなんかすんの?」


教室からどんどん人が消えていく。みんな楽しそうだなあ、今日はクリスマスイブだからか、はたまた明日から始まる冬休みに心を踊らせてるのか。そんなことを考えながら帰る準備していると、前の席に田島がどんと腰を下ろした。


「お前らって」
「お前と浜田」
「何でそんなこと聞いてくんの」
「今後の参考に!」


田島がニカッと満面の笑みを見せる。それとは対照的に、私は頬杖をついて小さく息を吐いた。


「あれっため息?」
「…別に何もしない」
「えー!何で?」
「ハマちゃんバイトだし」
「うっそ!」
「ほんと」
「お前それでいーのかよ?」
「だってしょうがないじゃん」
「ふーん。エライなー」


感心したような顔で田島が私を見る。別に全然えらくない。物わかりのいいフリをしてるだけで、本当は寂しいもん。遊びたかった、一緒に。


「プレゼントとかは?」
「それがさ」
「お、なんだよ」


ずいっと身を乗り出すと、田島が少したじろぐ。


「何あげればいいのかわかんなくて用意できなかったのどうしよう」
「あーあ」
「一応ケーキは作ってみたんだけど」
「なんだよ、んじゃそれでいーじゃん!」
「でもあんまりうまくできなかったし…ケーキだけって寂しくない?」
「そっかあ?オレはケーキだけでも嬉しいけど」
「うーーん」


頭に手を当てて考え込む。そんな私を面白そうに見ていた田島が、突然キラキラと顔を輝かせた。


「オレいいこと思いついた!」
「え!なになに?」
「ちょい耳貸して!」


なんだろう、とちょっとドキドキしながら言われるがままに耳を近づける。小声と呼ぶには大きい声が耳元で響いた。


「アレやれば?“私をプレゼント”みたいな」
「……はああああ!?」
「うおっお前顔の近くででけー声出すなよ!」
「田島が変なこと言うからだよ!」
「だってさーそれが一番嬉しいって!」


それを言ってる自分を頭の中で思い描いて、なんだかすごく恥ずかしくなった。乱暴に頭を振って想像をかき消す。そんな漫画みたいなこと言える気がしない。


「ぜってー喜ぶからさー」
「むむむ無理無理、恥ずかしくて」
「恥ずかしくねーよ」
「恥ずかしいよ!」


しょうがねーなーと口を尖らせる田島はほっといて、また頭を悩ませる。
ハマちゃんが喜ぶプレゼントかあ。“私をプレゼント”という田島の声が頭の中で再生される。それ言ったらほんとに喜んでくれるのかな。そんなことを考えてしまって、いやいやいやと頭を振っていると、突然手首を掴まれた。
私の手首を掴んだ腕を辿っていくと、その先には輝く田島の笑顔。文句を言う暇もなく引っぱられて、ある人物の前に引きずりだされた。ハマちゃんだ。


「おっ、どーした?」
「いやあの」


私と田島に優しく笑いかけるハマちゃん。今日もかっこいい。でもさっきまで“私をプレゼント”とかいう話をしてたせいか、顔を見るのがちょっと恥ずかしい。


「なんだよーなんかあったか?」
「いやえっと、田島が」
「浜田にクリスマスプレゼントやるよ!」
「え、田島が?」


ハマちゃんが目を丸くする。そりゃそうだろう。田島がクリスマスプレゼントをくれるなんて、1ミリも思っていなかったに違いない。
田島はそんなハマちゃんに笑顔を返しながら、どこから出したのか、赤いリボンを私の左手首に結びつけた。


「ほい!」
「え?」
「こいつ。プレゼント」
「…ん?」
「こいつが“私をプレゼント”って恥ずかしくて言えねえっつーからさー」
「たっ…田島ァー!?」


バチン!田島の口を慌てて手のひらで塞いだらすごくいい音がした。いってえー!とか聞こえたけど無視だ。コイツを野放しにしといたら危ない。
そーっとハマちゃんの方に目をやってみると、彼はポカンとしたまま固まっていた。顔が赤い。きっと、私も。


「……」
「……」
「えっと…」
「な、なに?」
「ほんとにくれんの?」
「え」
「お前」


さらに顔が熱くなる。左手首のリボンが揺れた。


「…え…えーと、その」


しどろもどろになる私の手に、ハマちゃんの手が伸びてくる。でもそれは直前でピタリと止まり、私に触れずに引っ込められてしまった。


「…あのさ」
「え?」
「バイト、なるべく早くあがれるようにしてもらうから」
「うん」
「そのあと一緒にケーキ食お」


その柔らかい笑顔に私まで表情が緩んでしまうのは、仕方がないことだった。


12.24

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