昼休みのことだった。


「榛名くんって何かちょっと、近寄りがたいよね」


どんな話の流れだったのかは忘れてしまったけど、クラスメートに突然そう言われた。りんごジュースのストローをくわえたまま、ウーンと首を傾げる。


「元希が?なんで?」
「カッコいいんだけど、ちょっと怖いっていうか」
「そうでもないよ、じゃんけん弱いし」
「あんたは幼なじみだからそんなこと言えるんだよー」
「そーかなあ」


榛名くんって近寄りがたい。もはや聞き慣れた言葉だ。小学校、中学校、そして高校と、それを言う相手はその都度違うものの、今まで何回も聞いてきた。
確かに元希って、目つき悪いし言葉は乱暴だし、よく知らない人から見たら怖いのかもしれないなあ。その割にモテてるけど。


「っていうことがあったんだよね」
「だから何だよ」


帰り道、昼間のその会話を報告したら、元希は不機嫌そうな顔をして私を見た。


「元希は怖いらしいよって報告」
「うぜー」
「ほらそれだって。言葉遣い」
「別に何て思われようが興味ねーし。わかる奴にだけわかりゃあいいんだよ」
「わかる奴って、私とか?」
「は?」
「なによ」


小さく鼻で笑った元希を睨みつける。だってそりゃあさ、結構わかってるつもりだよ、元希のこと。小さい時からずっと一緒にいるんだから。
でも、だからこそもったいないなあと思う。時々。元希は確かに目つき悪いし言葉は乱暴だしガサツだけど、野球してるときはとんでもなく格好いいし、可愛いところや優しいところもちゃんとある。でもそれがわかりにくいから、みんなにはまだ見えてないだけで。


「オレの優しいとこって、たとえば?」
「え?…えーと…」
「ねえのかよ!」
「いや待って、あった!こないだコンビニで20円足りなかったとき貸してくれた!」
「あっそ」
「だからー、とにかくね」


時間が過ぎるとともに、元希を怖いと言った彼女もそれ以外の人たちも、そういう見えにくいところに気がつくと思うのだ。
気がついてほしいと思う以上に、気がつかなかったらいいのにと思ってしまう、私の中の矛盾した気持ち。


「何でだよ」
「だってさあ」
「あ?」
「みんなが知らない元希を私は知ってるんだって思うと嬉しいじゃん」
「…はあ」
「元希のそういうところが他の子に知られるの、ちょっと悔しい」


元希は一瞬目を丸くして、すぐに表情を戻した。


「わがままかな」
「わがまま」
「だよね」
「でも好き」


今度は私が目を丸くする番だった。思わず止まってしまった私を見て、元希も足を止める。


「…初耳なんですけど」
「初めて言ったんだから当たり前だろーが」
「えらそうに」
「悪かったな」
「でも好き」


ぱちりと視線が交わった。元希の目が優しい色に染まって、子どもの頃と変わらない笑顔を見せた。
そんな目をして私の頭をくしゃくしゃと撫でる姿に、やっぱりこんな元希は誰にも見せたくない、とあらためて思う。そんな私を、身勝手だっていつもの顔で笑ってね。



10.23

- ナノ -