今日は一日曇り、夜には雪になるでしょう。朝ごはんを食べながら見たテレビでそう言っていた。予報通り今日はずっと空がどんよりしていて、外が暗くなるのもいつもより早かった。
放課後の図書室は利用者が少ない。天気の悪い日はさらに。今日のカウンター当番である私はそのおかげで暇を持て余し、気づいたら宿題が全部終わってた。やればできる、私。そろそろ帰ろうかな。雪まだ降ってないかな、セーフかな。誰もいないと完全に油断したまま、真っ暗な窓の外に目をやったその時、背後で戸の開く音。

「おーす!」

日向が元気よく小走りでやって来て、自分の顔がゆるむのがわかった。

「日向かーびっくりした」
「電気ついてたからまだいるかなーと思って」
「うん、まだいた」
「なあなあこれあげる」
「あー!それ好き」
「だよな!」
「もらっていいの?」
「いいよ。あげようと思って買ったから」

日向からココアを受け取ると、その温かさがじんわりと手のひらに沁みた。一緒にいない時でも私のことを思い出してくれたらしい。嬉しくて、「ありがとう」と目を合わせると太陽みたいな笑顔が返ってきた。私の隣の椅子を引いて、彼もそこに腰かける。

「図書室って暖房ついてなかったっけ」
「6時過ぎると消えちゃうんだよ」
「寒くない?」
「寒い」
「これ巻いといて!」

首からマフラーを外して、私にぐるぐると巻いてくれた。さっきまで日向が巻いていたおかげでぬくもりが残っている。それにいいにおい。洗剤や石鹸ともどこか違う、日向だけのあたたかいにおい。

「うわー手すげえ冷たいじゃんか」
「そうなんだよね」
「鼻も冷たくなってる!」
「あ、ほんと?」
「ほんと。ダメだろ、体冷やしたら」

シャーペンを置いた私の手に触れて、その冷たさに目を丸くする。マフラーに埋もれそうな私の鼻の先に手のひらをぴったりと当てて、また目を丸くする。日向の手が、私の耳に触れてみたり、頬に触れてみたりして、最後は両手を包みこんでくれた。ゆっくりと優しく握ったり撫でたり。熱を分け与えるように。彼の体温が伝わって、指先の感覚が戻ってくるのがわかる。

「日向の手あったかい」
「おれって体温高いんだってさ」
「そんな感じするね」
「昔からよく親に言われてたんだよなー」

不意に日向の手が離れ、空気の冷たさと寂しさを感じた。もっと触っててほしかったな。そう残念に思ったのは一瞬のこと。突然背中に腕が回されて、思考が止まる。

「こうしたらもっとあったかいかも」

閉じ込めるように抱きしめられた。全身で熱を感じる。静まり返った図書室の中で、伝わってくるのは小さな呼吸の音だけ。体の冷たさが、じわりと溶けていく。

「イヤ?」
「…い」
「ん?」
「イヤじゃない」

イヤなわけがない。体と体がぴったりとくっついて、ものすごくドキドキするのに、それ以上にホッとして心地よくて、言葉にできない気分だ。日向と出会うまでは知らなかった感覚。日向じゃないと、こんな気持ちにはならない。
このままじゃ離れたくなくなる。離れられなくなる。いや、もうすでに。

「あー離れたくないなあ」
「私も今同じこと思ってた」

春の光のようなあたたかさで満たされる。どんなに寒い日でも、どんなに風の強い日でも。彼と一緒なら、いつだって。


2014.11.30
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企画「ぬくもりのみつけかた」様に提出。
ありがとうございました。

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