今日は彼が生まれた日。一年に一度の大切な日。

「月島ー誕生日おめでと!プレゼントあげる」
「ありがとう。…どこにプレゼントがあるわけ?」
「ここだよ。私がプレゼント」
「え、いらない」

放課後、人もまばらな4組の教室。食い気味にお断りされて、上がっていたテンションが急降下した。仮にも彼女だぞお前。彼女の渾身の一言に対していらないってお前。「ミョウジさんがくれるものならツッキーは何でも嬉しいと思うよ」って山口くんが天使のようなことを言ってくれたから大丈夫かなって思ったのに。バカじゃない?って嘲笑される心の準備はしてたけど、甘かった、私。「嬉しくても素直に嬉しいって言うかどうかはわかんないけどね」と後から付け足されたこれまた山口くんの言葉に何とか支えられて、よろけそうになった体を立て直す。

「ちょっとしたジョークじゃん…そんな真顔でいらないとか言わなくてもさ…」
「用がないならもう行っていい?」
「用あるある!ハイこれ本題」
「なにこれ」
「月島の好きなケーキ屋さんのサービス券でーす」

一瞬、ヤツの眼鏡の奥の目が光った。ようやく返ってきた想定通りの反応にホッと胸をなで下ろす。以前月島の家に遊びに行ったとき、ここのケーキを買っていったら喜んでいたこと。覚えててよかった。ものすごく分かりにくい喜び方ではあったけど。

「半額とかじゃないよ、タダになるんだよ。すごくない?」
「すごいね」
「持ち帰りには使用不可だからお店のカフェスペースで食べなきゃいけないんだけどね」
「ふーん」
「ということで月島にあげる」

サービス券を突き出すと、月島はそれを受け取って目の前にかざした。ただでさえ小さなその紙切れは、彼の手の中にあるとさっきまでよりもさらに小さく見える。

「今日は放課後ヒマなんでしょ」
「うん」
「今から行ってみたら?じゃあまた明日…いたたたたた!」
「ちょっと。なに帰ろうとしてるの」
「痛い痛い頭わしづかみにするのやめていたたたた」
「僕に一人でこれ行けって?」
「だってその券一人しか使えないし」
「片方が普通にお金払えばいいだけでしょ」
「そりゃまあそうだけど」
「一人で食べてもおいしくないし。ほら行くよ」
「え?君と一緒じゃなきゃおいしくないって?」
「……」
「しょうがないなあ月島は」

得意げに笑えば、月島は信じられないものを見るような目で私を凝視した後、とんでもなく長く深いため息を吐いた。

「否定しないなら肯定と取りますが」
「勝手にすれば」

長い足を最大限利用してさっさと歩いていく後ろ姿を追いかける。ちらりと見えた月島の耳は赤く染まっていて、ショートケーキの上のイチゴみたいだと思った。


2014.11.21(9/27)

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