寒がりな彼女の部屋に行ったら、もうコタツが出ていた。早すぎだと思う。
入って入ってと促されて、俺もナマエさんが座っている隣の辺に腰を下ろして足を潜らせる。あ、足がぶつかった。目線だけで彼女の様子を伺うと、口元がにやりと緩むのを我慢しようとして我慢できていないのが丸わかりで、少し笑いそうになった。
まだ早いだろうとは思いながらも、やっぱりコタツは不思議と落ち着く。ナマエさんの部屋だと、余計に。
「栗もらったから茹でたんだー食べる?」
「俺むきましょうか」
「えっいいの?」
「はい」
ボウルに盛られた栗を手にとり、もくもくとむいていく。皮はチラシの上へ。むき終わった栗はナマエさんの手元へ。それを彼女が一口でぺろりと食べる。流れ作業。
「京治くんも食べようよ」
「じゃあ1個だけ」
「もっと食べていいよ?」
「ナマエさんが食べてるとこ見てるほうが楽しいんで大丈夫です」
「そういうもんでしょうか」
「そういうもんです」
すべてむき終わり、洗面所で手を洗ってからコタツに戻った。さっきと同じ場所にまた座る。あ、そういえば。座った拍子にガサッとビニール袋の擦れる音がして、すっかり頭の中から消えていた手土産の存在を急に思い出した。
「実家からリンゴと梨が大量に届いたんで持ってきました」
「わーほんと?嬉しい!」
「まだ食えます?」
「うん」
「どっちがいいですか」
「リンゴ」
「皮むきますね」
綺麗に赤く色づいたリンゴと果物ナイフを手に取る。半分、さらに半分、そのまた半分、とナイフを入れてから、芯を取り皮をむいた。ナマエさんは一時も目を離さず、俺の手元をじっと見ている。
「上手だね」
「小学生のときリンゴの皮むきテストとかありませんでしたか」
「あったあった」
「あのとき猛練習したの、手が覚えてました」
「へえー。もしかしてウサギリンゴもできる?」
「できますよ、ほら」
「うわほんとだ!かっこいい!」
かっこいいだろうか、これ。若干疑問に思ったが、ウサギリンゴを受け取ったナマエさんの目がとてもキラキラしていたから、あまり気にしないことにした。この人の言葉はそのまま素直に受け取って問題ない。それは、今までの付き合いの中で学んだ。シャクシャクとリンゴをかじる姿がやたら可愛くて困る。
「すごいねーこれも小学生のとき練習したの?」
「いやこれは…」
「ん?」
「最近です。ナマエさんが喜ぶかと思って」
「…まじですか」
「まじですね」
ものすごくニヤけた顔で見てくるから、目を合わせていられなくて視線を泳がせる。俺はナマエさんのことが大好きですと告白してしまったかのような気分だ。事実なんだから仕方ない。顔が熱いような気がするのは、早すぎるコタツのせいだ。
「なんかごめんね。さっきから皮むいてもらってばっかりで」
「好きでやってるんで気にしないでください」
「そう?」
「なんか色々あげたくなるんスよね、ナマエさんって」
「そ…そう?」
「それより、こんな早くからコタツ出して大丈夫なんですか」
「京治くんも好きでしょコタツ」
「好きですけど。今からもっと寒くなるのにどうやって冬を越すつもりなのかなと」
「寒いときは京治くんにくっつくから大丈夫」
「…そうですか」
じゃあ早く寒くならないかな。聞こえるようにそう言って、薄く開いた彼女の口にウサギリンゴを放り込んだ。
2014.10.25