学校を出て一人で歩く帰り道。すれ違うのはカップルばかり。送ってこーか?という黒尾先輩のありがたい申し出、やっぱり断らなければ良かったかもしれない。
私がマネージャーをしている男子バレー部では、部室でささやかなクリスマス会を開催するのがいつからなのか知らないけど恒例になっていて、今年ももちろん例年通り行われた。ささやかながらプレゼント交換もある。去年も今年も夜久先輩のプレゼントが当たらなかった自分の運を呪いたい。これが最後のチャンスだったのに。

「しかも全然喋れなかった」

足元の小石を蹴り飛ばそうとして空振りした。それもこれも山本がケーキを買い忘れたせいなのだ。早めに部室に着いて夜久先輩の近くに座る準備は万端だったのに、早めに部室に着いたばっかりに山本が忘れたケーキを代わりに買いに行く羽目になってしまった。帰ってきた時にはほとんどの部員が集まっていて、夜久先輩付近にはもう座れるスペースがないという状態だった。そしてまったく喋れないままクリスマス会は終了した。完。

「あーあ、もうもうもう」
「もーもー言ってると牛になるぞ」

背後から聞こえた声にピタリと足を止める。勢いよく振り向くと、そこに立っていたのは寒そうに身を縮める夜久先輩。ヨッ、とか言いながら軽く手をあげる。信じられない。なぜここに。

「夜久先輩」
「おう」
「…夜久先輩?」
「なんだよ」
「なんでいるんですか」
「もう暗いしやっぱ一人じゃ危ねえなと思って。俺が送ってく」

行くぞ、と歩き始めた夜久先輩の背中をポカンと見つめる。少し先で立ち止まって手招きをする先輩を追いかけた。さっきまでのいじけた気持ちは何だったのかと思うくらい、心も足も軽い。まさか最後にこんな嬉しい出来事が待ち構えてたなんて。

「ミョウジの家こっちだっけ」
「あ、…そっちじゃなくてこっちです」

左に行ってここは真っ直ぐで、と道案内をしながら歩く。私の隣に夜久先輩がいるなんて夢を見ているようで、何回も隣を確認してみるけど、先輩は消えたりしない。ちゃんとここにいる。夢じゃない。

「プレゼント誰のが当たった?」
「リエーフのやつです」
「どれ」
「これです、このキーホルダー」
「どこで売ってんだこんな不気味なの」
「絶妙ですよね」
「早速カバンに付けてるし」
「よかったら使ってくださいね!って十回くらい言われたから」
「へー」
「夜久先輩は?」
「俺は研磨の。カイロだった」
「わー実用的」
「研磨らしいよな」

話しながら歩いているうちに目的の場所に辿り着き、人混みの中で二人揃って足を止めた。目の前にあるのは私の家ではなく、この辺ではそれなりに有名なイルミネーション。想像以上の輝きに思わず見とれてしまう。

「綺麗ですね先輩!」
「おお、すげえな」
「こんなに迫力あるんだー」
「…ところでこれがミョウジの家?」
「はい」
「はいじゃねーだろ」
「だって。せっかく夜久先輩と二人きりになれたんだから、そりゃイルミネーションとか見たいじゃないですか」

一瞬の静寂。告白みたいなことを言っている自覚はある。隣から視線を感じるけど、顔を向けることができない。

「来年はもう夜久先輩はいないんだから、今日が最後のチャンスなんです」

喉の奥が痛くなる。言葉にしたら急に現実味を増した気がして、なんだか泣きたくなった。自分で言ったくせにバカみたいだ。
来年もクリスマス会はきっとあるけれど、そこに夜久先輩はいない。毎日のように顔を合わせることができたあの日々にももうすぐ終わりが来る。私がただの部活の後輩である限り、夜久先輩にはもう会えないんだ。冬が終わってしまったら。
何もいらないから、今この瞬間に時間を止めてほしい。神様でも仏様でもサンタさんでも、誰でもいいから今すぐに。

「ミョウジ、泣いてんの?」
「泣いてません」
「来年も一緒に見れるから泣くなよ」
「テキトーな慰めは余計に悲しくなりますよ…」
「テキトーじゃねえって」

俺はこれからも、ミョウジと一緒にいたいと思ってるよ。
その優しい声に、思わず隣を見る。目を見ただけで気持ちがわかるなんて、作り話の中だけだと思ってた。だけど今なら信じられるかもしれない。だって、そんな表情はズルい。期待するなっていうほうが無理だ。

「受験終わったら言いたいことあるから」
「…はい」
「それまで待っててほしいっていうのは勝手すぎ?」
「待つなって言われても待ってます」

今はまだ、触れそうで触れない手と手。見るものすべてがキラキラと輝いて見えるのは、誰のせい?



2014.12.24 (2020.5.17再録)
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企画「present」様に提出。
ありがとうございました。

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