一年に一度の日も終わりに近づいている。毎年朝イチでお祝いを言いに来てくれていたあの子から今年は音沙汰がない。数ヶ月前、ただの幼なじみから、幼なじみ兼彼女へと変わった女の子。朝からいろんな人におめでとうと言ってもらってもちろんそれは嬉しいけど、どこか足りなく感じてしまうのは彼女の顔を見ていないせいだ。例年通り朝イチで来てくれると期待してしまっていた分少し拍子抜けというか。
今なにしてるのかな。布団に寝転び目を閉じると、枕元のケータイが短く震えた。それを手に取り、表示された彼女の名前とメッセージを見て即座に立ち上がる。

「ごはん食べに来ない?」

ケータイと財布をポケットに突っ込んで、すぐに家を飛び出した。


「いらっしゃーい」

見慣れた部屋着で出迎えてくれるナマエ。早かったね、という言葉に適当に頷きながら靴を脱いだ。

「おじさんとおばさんは?」
「旅行でいない」
「じゃあ今日ひとりなんだ」
「うん」

そんなことをそんな簡単に言っちゃっていいのかな?ていうか、その状況で俺を部屋に入れていいのかな?何も気にしてなさそうだ、彼女は。信頼されていると言えば聞こえはいいけれども。
リビングに通されて、テーブルに並んだ料理を見た俺は思わず声を上げた。なんだかいいにおいがすると思ったら。

「どうしたのコレ、すっごい豪華」
「でしょ」
「ナマエって料理とかするっけ」
「いつもはしないよ。今日は特別」
「なんで?」
「なんでって…お祝いしたいからだよ」
「え」
「誕生日おめでとう、徹」

覚えてたんだ。忘れられていると思っていた俺の口から独り言のように声がもれる。当たり前だよとナマエが笑う。なんか一気に安心した。向かい合って手を合わせ、料理に手をつける。めちゃくちゃおいしい。大量のごちそうを軽く平らげてから、二人で食器を片付けた。

「ケーキもあるよ」
「本当だ」
「買ってきたやつだけど」
「十分嬉しいって、ありがと。俺これがいいな」
「だろうなーと思った」

本を見ながら頑張って作ってくれたであろう料理。そして俺の好きなケーキ。泣き虫だった、あのナマエが。感慨深く息を吐く。

「…はあ」
「どうしたの?」
「ナマエも大きくなったなーと思って」
「なんで徹の誕生日に私の成長を実感してんの」
「いやーだってさぁ」
「大きくなったのは徹もでしょ。もう十八歳だよ」
「本当にね」
「結婚できる歳だね」
「まだしないけどね」
「まあそうだよね」
「でもずっと一緒にいたい相手なら昔から決まってる」

彼女に聞かれたことがある。いつから自分のことを、ただの幼なじみではなく女の子として見ていたのかと。正直そんなの覚えていない。ずっと前から、気づいたときにはもう、ナマエは俺の特別な女の子だった。「おとなになったらけっこんしよう」と昔交わした約束だって、幼いなりに俺は本気だった。そして、それは今も変わらない。

「びっくりするくらい一途な男だったみたいだよ、俺」
「私だってそうだよ」
「うん。わかってる」

キスしたいな。そう思っていたら、珍しくナマエのほうから顔が近づいてきた。おとなしく目を閉じてみる。だけど、いつまで待っても何も起こらない。耐えかねて目を開ければ、至近距離に赤い顔のまま動かないナマエがいた。俺と目が合ったことに驚いて離れようとするから、反射的に後頭部へと手を回し引き寄せる。そのままキスをすると、さっきよりもっと顔が赤くなった。

「人間ってここまで顔を赤くできるものなんだね」
「もーやめてよ見ないでよ」
「やだ」
「やだじゃない」
「もっと赤くさせてみたいな〜」

ばか!という声と共に叩かれた肩は全然痛くない。この子とは何十年 一緒にいたって、飽きる気がしないよ。


2015.7.20
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企画「18歳のきみへ」様に提出。
ありがとうございました。

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