目を開いてまず見えたのは、白い天井だった。見慣れた自分の部屋だ。数秒置いてから、あれは夢だったんだと気づく。
 さっきまで私は海にいた。太陽を反射してキラキラと光る海。砂浜で少し先を歩く男の子が振り返って笑う。いや、男の子というよりも男性といったほうがいいかもしれない。だけど背が伸びても、大人びた輪郭になっても、私の大好きなあの笑顔は変わらない。
 なんだか無性に会いたくなった。

 身軽な服に着替え、髪を手ぐしで簡単に整えてから家を飛び出す。あんな夢を見たのはきっと、いや絶対、遊真くんの身体について話を聞いたからだ。年齢の割には幼い身体。成長しない見た目。少しずつ消えていく命。気にしないつもりでいたけれど、衝撃は多分じわじわと私の中で広がっていた。だから、大人になった遊真くんの夢なんて見たのかもしれない。

「お。ちょうどいいところに」

 息を切らして玉狛支部にやってきたら、遊真くんはのんびりとした様子で出迎えてくれた。幼い目元をゆるめて私を見つめる。

「すごいタイミングだな」
「そうなの?」
「うん。会いたいなーと思ってた」

 そう言った彼が嬉しそうに笑うから、胸がぐっと苦しくなる。この溢れでる気持ちを何と呼べばいいのかわからない。

「あ、そうだ。なあ腹減ってる?」
「割と」
「たこ焼きパーティーしよう。たこ焼き器あるから」
「えー、やりたい!」
「こないだオサムたちとやったら楽しかったから、一緒にやりたいなと思って」

 楽しいことは一緒にやりたいし、おいしいものは一緒に食べたい。私がそう思うのと同じように思ってくれているのがたまらなく嬉しい。どんな姿であろうと、これからもそうやって隣で笑い合える関係でいられたなら。それ以上の幸せってあるだろうか?

「ではおれに任せてゆるりとお待ちください」
「大丈夫?」
「レイジさん直伝なので」
「それは間違いないね」

 無謀だとか、夢物語だとかもしも言われても、輝く日々を信じずにはいられない。これからもずっと一緒にいられるなら、私は何だってできると思う。
 だからいつかきっと、夢にまで見た未来と巡り合えますように。


2020.1.12 (2020.5.17再録)
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♪正夢/スピッツ
「MY FAVORITE SONG」に寄稿。
ありがとうございました。

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