01
この物語の終演≠フ、はじまりはじまり。


 何も無い漆黒の暗闇の中で、何かが微かに動いた。


「…じゃ、始めよっか」


 誰かが呟いた。何故かは分からない。
 けれど、酷く懐かしく感じた。


「私達は三人で一つなんだよ?」


 その声は、次第に聞こえ始めたノイズの中へと溶けていく。


「―――った――、――――あえ――よ」


 たくさんのノイズが混じり、その声が聞き取りにくくなっていく。もっとよく聞こうと耳をそばだてても、努力の甲斐虚しく、ザーザーと耳障りな音が広がるばかりで。

 再び、その言葉が聞こえたのは唐突だった。


「自分の物語に…始まりの終止符を、打つんだ」


 嬉しそうに、愉快そうに、寂しそうに、声は言った。
 意味を理解する前に。


 ――ぷつり


 完全に、音は
 途絶えた。


◇◇◇


「―――」


 遠くで、誰かが自分を呼ぶ声が聞こえる。
 しかし、空はこの心地よい暗闇の中から抜け出したくなくて、その鬱陶しい声を無視し続けた。


「―――っーやく、―――ってば!」


 しかし一向にその声は止む気配はなく、むしろ大きくなってきて。声の主に対して苛立ちを覚え始めた時、身体がひんやりとした冷たい空気に触れた。かと思うとほぼ同時に、耳元で怒鳴り声がした。


「こんの・・・いい加減起きろぉ!!」
「うおぁ?!いたっ」


 ゴッという鈍い音とともに、頭に鋭い痛みが走る。尋常ではない叫び声と痛みに、空はたまらず重たい瞼を抉じ開けた。
 すると、目の前には自分と同じ顔をした三つ子の姉の叶が――逆さまに、立っていた。


「え、え?なんで叶ちゃん逆さに立って…るの?」


 未だにぼんやりする頭をフル回転させ、そのありえない光景の原因を必死に考えた。考えだして数秒。ふと、自分の頭に血が昇り始めているのに気が付いた。
 そして自分が今現在、ベットから上半身がずり落ち頭と床で体重を支えているというかなり危ない格好をしていることに気が付いた。
 慌てて僕は(無理矢理)鍛え上げた腹筋で上半身を起こすと、床にぶつけて痛めた部分をさすった。
 よほど激しく打ったのか、少しコブになっている。

 ――冷やさないと大変なことになりそう・・・

 そんな事を考えていると、近くからはあぁ・・・という盛大な溜息が聞こえた。


「やーっと起きた。ほんともー・・・この寝ぼすけ!日曜だからっていつまで寝てるのよ!」


 嫌味ったらしくそういうのは、安眠妨害した張本人――僕の三つ子の姉である#kana2#ちゃんだ。
 #kana2#ちゃんは長女という事もあり、僕ら姉妹の中で一番しっかりしていて頼りになる存在だ。
 僕は低血圧なため朝が苦手で、よく寝坊をしてしまうのだが、そんな僕をいつも起こしてくれるのも#kana2#ちゃんなのだ。


「#kana2#ちゃんおはよ・・・今回はちょっと痛かったよ・・・」
「折角起こしてあげたのに愚痴愚痴いわないの!もうご飯準備終わってるからちゃっちゃと顔洗ってきなさい!片付かないんだからっ」


 言うが早いか#kana2#ちゃんは踵(きびす)を返してさっさと部屋を出て行ってしまった。
 よく思うことなのだが、#kana2#ちゃんはいいお母さんになれると思う。
 両親が小さいころから居ないからよく分からないけれど、母親が居たらこんな感じなんだと思う。
 それに#kana2#ちゃんって面倒見いいし。
 ぼんやりそんな変な事を考えて、いい加減朝食を食べに行かないとまた#kana2#ちゃんが来ると思い、のろのろと立ち上がったのだった。


 ◇ ◇ ◇


 部屋を出て顔を洗いに廊下を歩いていると、リビングから#kana2#ちゃんと#uta2#ちゃん――三つ子の次女が言い争っているのが聞こえてきた。
 昔は三人とも仲良しだったのに、何故か最近二人はよく喧嘩するようになった。
 いつも些細な事から喧嘩が始まり、時々激しい闘いになったりする。
 今回も、聞こえてくる内容はなんとも馬鹿らしい。
 『ご飯に味噌汁をかけるか味噌汁にご飯をかけるか』なんて言い争い、今時小学生でもしないんじゃないだろうか・・・

 洗面所にようやくたどり着き、顔を洗うために蛇口をひねる。
 勢いよく出てきた水に少しだけ手を当てた。
 もう夏だというのに、この家の水はきんきんに冷えていて、触れた瞬間に思わず身震いしてしまった。
 ここの水が冷たいのは、僕らが住んでいる場所が山に囲まれた超田舎だからだといえる。
 しばらくして水の温度にも慣れてきたところで、手で掬い取り、パシャパシャと顔を洗う。

 僕はこの顔を洗っているときが結構好きだったりする。
 さっぱりするというのもあるけれど、冷たくて気持ちがいいし、気が引き締まって今日一日頑張るぞ!と思えるから。

 顔を洗ってすっきりした僕は、そのままリビングに直行した。
 リビングでは相変わらず二人が喧嘩していたけど、いつの間にか激しさを増した喧嘩になっていて、リビングは散々な状態だった。
 ティッシュ箱から箸や鍵などなど、とにかく近くにあったものを投げては避け、投げては避けを2人して繰り返し、最終的に取っ組み合いへと移行したところのようだ。
 そんな惨状にも関わらず、食卓だけは綺麗に無事だったのは奇跡としかいいようがない。
 そして相変わらず喧嘩の内容は小学生並みで醜いよ2人とも。


「一番カッコいいのはエンヴィだっていってるじゃん!」
「何言ってんの!大佐に決まってんでしょ!」
「無能大佐なんて最低だよ!誰彼構わず手ぇ出す最低男!!」
「はんっ大佐の魅力が分からないなんてお子様ね#uta2#!エンヴィなんて300歳超えのおじいちゃまじゃない!」


 そんなやり取りが延々と続いていた。
 そんな内容のためだけにここまで暴れなくても・・・と呆れつつ、2人を無視してテーブルに着き、「いただきます」と手を合わせて朝食を食べ始めた。
 ほかほかの白ご飯を口に頬張りもぐもぐと口を動かす。
 しばらくすると口の中にご飯の甘みが充満し、僕は何だか幸せな気分になった。
 ご飯を食べてるときって一番幸せだと思う。
 だって、この広い世界では、何日も満足にご飯が食べれなくって死んじゃう人たちだって大勢居るわけなのだから。
 その人たちのことを考えると、毎日美味しいご飯がお腹いっぱい食べれる僕は幸せ者だよな、と思う。
 まあ、深くは考えて無いのだけど。
 実際には想像しようもないのだから・・・

 そんな風に幸せな朝食タイムを楽しんでいる僕の傍らで、相も変わらず暴れ続ける我が姉たち。
 いつのもことながら少しうるさい。
 自身も身の危険に晒されてはいるが、いつもの事なので気にせずにサラダへと箸を伸ばした。
 その時だった。


 ぱりんっ


「「あ・・・・・・」」


 流れ弾ならぬ流れが見事に食べ物の入ったお皿の真ん中にクリーンヒットし。
 今まさに手をつけようとしたレタス共々ぱっくりと割れてしまった。
 大好きな野菜が一口も食べることなく駄目になってしまって――

 僕の中で、何かが切れた。


「・・・ねえ、2人とも」


 僕はくるりと首だけ回し、満面の笑みで二人を見た。
一瞬2人の肩がびくっと揺れたような気がしたけれど、気にせず僕は言葉を続けた。




 朝食の無残な姿を見つめて溜息をついた。
 此処最近この2人のせいでゆっくりとご飯を食べることも本を読むことも出来ていない気がする。
 喧嘩するのは別にいいけど、僕を巻き込まないで欲しいと切実に思う。
 いい加減僕も許容範囲の限界を超えそうだ。


「喧嘩するのはいいけど、光物だけは止めてっていってるじゃん」
「うん・・・ほんとにごめんね#sora2#」
「今度から喧嘩する時は出さないわ・・・・・・」
「2人とも毎回そういって毎回見事に約束破ってるよね」
「「ぎくっ」」
「いや、効果音言葉に出して言わなくていいからね。てかね、お願いだから、今度から外でやってくれる?」
「・・・・・・ええ。なるべく努力するわ、#sora2#」
「#sora2#のお願いなら・・・#sora2#の報復とかそういうのは勘弁だし」


 そういって、2人は醜い争いを止め、いそいそと部屋の片付けを始めた。
それを横目で見つつ、僕は中断された食事を再開した。
 #kana2#ちゃんの料理は相変わらず美味しいのだけれど、先程のこともあって食事のスピードが明らかに落ち、口に放り込んだプチトマト(一つだけ無事だった)をゆっくりと咀嚼(そしゃく)した。
 そうやってぼんやりしながら食事をしていたけれど、ふと、何かが頭の隅を掠めた。
 なんだっただろう、何かが、今日は何かがあった気がする。




-----
(2006/8/1 改正2011//)
主人公設定を一部と1話後半から、がらりとお話を変えることにしました。
前までの設定がいわゆる「最強主人公」で、最近だんだんと夢から離れ、特に最強主人公という設定に惹かれなくなり…続きを書こうにも書けなくなってしまいまして。
なんだか月日を感じます。
年取ったなあ…←

だけどやっぱり、これが初めて書き始めた夢連載で、長年放置しつつ妄想だけが膨らんだ作品なので、救出してあげたい気持ちが強くなり、思い切って内容修正する事にしました!
といっても、これでかれこれ3回目(下手すると4回目)の改正&修正なんですけど(笑)

凍結中ですが、ちまちま改正と更新をしていければいいな、と思っています。
気が向いたときにでも覗いてやってくださいね…!


prev next

bkm
×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -