旧06
 




六つの花
File.006





「その、いきなりすみませんでした・・・・・・」
「あ、いや、俺も悪かったし・・・」


 あの後盛大に叫んだ僕らは、数日前の異世界人発覚事件とは比にならない程衝撃を受け、固まってしまった。
 エドワードと名乗った人物と残りの二人も、僕らの突然の叫び声に軽く鼓膜がやられたようで、直撃を受けたエドなんかは目を白黒させていた。
 その場で一番始めに立ち直ったのは#uta2#ちゃんで、違う世界にトリップしている僕らの意識を引き戻し、玄関で立ち話もなんだから・・・ということで、とりあえず三人を家の中に招き入れた。
 そして現在、本来四人掛けのテーブルを挟む形で――山奥にあるにも関わらず、無駄に広い造りの家でよかった――僕、#kana2#ちゃん、#uta2#ちゃんの三人と、例の三人組は向き合っていた。
 正確には#kana2#ちゃんはお茶を入れにキッチンに行っているので一つ空席があり、五人で向き合っている状態だ。
 因みに椅子は足りなかったので、来客用に用意してある折りたたみ式を引っ張り出してきて、僕と#uta2#ちゃんがその少し固い椅子に座っている。
 座る位置は何故か当然のように僕とエド、#kana2#ちゃんとロイこと大佐(たぶん)、#uta2#ちゃんとエンヴィ(のはず)となっていた。
 これはこれで嬉しいんだけど、さっきの事故があった身としては色々と恥ずかしいやらなんやらで複雑な気分になる。
 それは相手も同じようで、エド困っているのか、目が泳いでいては口元に手を当てて咳ばらいをしたりして気を紛らわそうとしていた。


「全くだ。いきなり女性に頭突きをした上に押し倒すなど、男の風上にも置けないな。そんな風だと彼女にも愛想をつかされてしまうぞ」


 そんなエドに大佐が唐突に茶々を入れてきた。
 その言葉に反応した彼は「余計なお世話だ!」などと叫んでいて、彼女ってだれだろう、というかガールフレンドがいるのかな、居るとしたら誰なんだろう、まさかウィンリーとか言い出すんじゃないだろうか・・・なんて変な考えが頭を過ぎった。
 ちらりと#uta2#ちゃんを横目で見ると、こっちはもっと複雑そうな表情でエンヴィをちらちらと見ていた。




 実際、この人達が何の用事で来たのかさっぱりわからない。
 大分妥協してこの人達が僕らの故郷であるというアメストリスからきたとしても、一体どうして僕の事(寧ろ僕ら)を知っているのだろうかとか、何の用(先程用があると言っていたし)で来たのかとか、疑問は尽きない。
 一番不思議なのは、エドと大佐が漫画本編より大分歳をとっていて、大佐が眼帯をしていないことだったりするけれど。
 まああれはアニメ版だったし、まだ漫画は十巻までしか出てないしなー・・・なんて考えつつ、軽く現実逃避しかけながらどこか遠くをみつめた。
 悶々と考えに浸っていると、いつの間にかエドとロイのちょっとした口論もなくなっていた。
 流石にこの空気の中では気まずかったのかもしれない。
 一人至極面倒臭そうな顔をして、暇だと言わんばかりに辺りをキョロキョロ見回している人物が居たが。(言わずもがなエンヴィだ)
 そして沈黙が再び空間を満たし、時計の針が秒を刻む音だけがリビングに響いていた。


 そこに、キッチンからかちゃかちゃという音が微かに聞こえてき、漸く#kana2#ちゃんが戻ってきた。
 お盆に人数分の湯呑みを乗せ、零さないようにゆっくりした足取りだった。


「あの・・・これ、緑茶ですけど・・・どうぞ」
「ん?ああ、わざわざすまない」
「どーも」
「あ、サンキュ・・・へえ、これが緑茶か・・・・・・」


 #kana2#ちゃんがお茶を差し出すと、なにやら考え込んでいたらしいロイが一番始めに反応した。
 後の二人もそれに続くように言葉を発したのだけれど、中身を覗いて驚き、緑茶を初めて見た、というような発言をした金髪の彼を、僕は思わず不思議なものを見るような目で見てしまった。
 でもすぐに、あのアメストリスから来たんだと思えば妙に納得してしまった。
 ことり、と最後の湯呑みがテーブルに置かれた。
 置き終わった#kana2#ちゃんは空いていた席に座ると、静かに、先程取り乱した事なんて無かったかのようにぴんと背筋を伸ばした。
 こんな時だからこそ、いつも以上に#kana2#ちゃんはきびきびと行動していた。
こういうところはやはりお姉さんなんだなあと、僕は頼もしく思いながらその姿を見つめた。


「・・・先程はそちらの方には伺いましたが、お名前を伺ってもよろしいでしょうか?」


 沈黙したその場を打破するかのように、しっかりした口調で#kana2#ちゃんが沈黙の口火を切った。
 それを聞いた大佐がまずそれに反応し、一つ咳を付くと#kana2#ちゃん同様真っ直ぐに視線を相手――#kana2#ちゃんに向けた。


「ああ、これは申し遅れたね。私の名はロイ・マスタング。以後お見知り置きを」


 予想通りというか何と言うか、やはり大佐だろうと思った人は大佐だったようだ。
 にこりと笑った黒髪の彼は、何と言うかお世辞抜きにかっこよくて、本当に歳をとっているのかと疑いたくなった。
 師匠達も似たようなものだけれどあれは別次元の話しだし。
 因みに彼の服装は軍服ではなく、かっちりしたカッターシャツに、細身だがゆったりとした深い紺色のズボンという軽装だった。
 しかしそれがまた似合っていて、思わず惚れ惚れと彼の顔を見てしまう。
 なんとなく#kana2#ちゃんをちらりと見てみると、大佐ラブな#kana2#ちゃんはほんのり顔を赤らめて視線を少し伏せていた。
 その様子を可愛らしいと思いつつ、彼氏が見たら何て言うかな、などと内心苦笑が漏れた。


「僕はエンヴィ。不本意ながらこいつらと一緒にお邪魔させてもらった」


 怠そうにテーブルに肩肘を立て、その手の上に顎を乗せていた彼は、その黒く長い髪をもう片方の手でいじりながら、不機嫌そうに目だけで僕らの顔を見回した。
 あからさまに面倒臭がっている態度にじゃあ何で来たんだとツッコミたくなったけれど、瞬殺されそうな予感がしたので僕は口をつぐんだ。


「・・・・・・それで、どういう御用件でここに来たんですか?」
「その前に一つ確認しておきたいことがあるんだが・・・・・・」
「なん、ですか?私たちも貴方方が何処から来たのかお聞きしたいのですが」


 今まで口を開かなかった#uta2#ちゃんがすかさず大佐に切り出した。
 僕らが一番気になっていた、肝心な事。
彼等が本当に「アメストリス」から、いや「あちらの世界」から来たのかということだ。


「まあ、俺らを知っているとは聞いていたけど、疑うのは当たり前だよな」
「論より証拠って言うし、おちびさんがぱっと錬金術でも使えばいいじゃん」
「しかし、こちらではむやみやたらと使えないのだろう?」
「小規模なのなら良いって言ってたぜ」


 目の前で三人がごちゃごちゃと話し出し、僕らは蚊帳の外のような状態になってしまった。
 なので僕らもアイ・コンタクトで会話をすることにした。


――ぶっちゃけさー、もうこの人達本物だよね?
――そうじゃないかな?じゃなきゃ僕らが異世界人っていうのもデマだし・・・・・・
――いえ、多分間違いないわ。彼は大佐よ。あの色香は大佐にしか出せないわ!
――論点ちがうよ#kana2#(ちゃん)!
――でも錬金術は見てみたいよねー。エンヴィ変化しないかな・・・ラストさんとかに。
――・・・無理じゃないかな(かしら)。
――・・・ですよねー。


 大分この状況に慣れてきたせいか、僕らはいつものように軽口をたたける(ただしアイ・コンタクト)ようになってきた。
 それは相手方も一緒のようで、いつの間にか口論へと発展し、中々にヒートアップしていた。
 主にエドと大佐が、だったけれど。
 流石にそれにいらついたのか、傍観を決め込んでいたエンヴィが静かに口を開いた。


「・・・あのさ、アンタたちいい加減にしてくれない?話進めたいんだけど」


 その瞬間、それはもういっそ見事なほどぴたりと止まった。
 まさに鶴の一声。
 僕はそれにいたく感動し、思わず感嘆の声をあげるところだった。


「あー・・・それもそうだな・・・・・・」
「私としたことが・・・みっともない所を見せてしまったね」
「いえ、それでこそ大佐だと思いますよ。・・・ヘタレな所とか」
「ちょ、#sora2#!本音出てる出てる!」
「「?何か言ったか(い)?」」
「「なんでもありません!」」


 綺麗に声をハモらせた僕らに、彼らは胡散臭げな表情を向けたが、直ぐにため息をついてゆるゆると首を振った。
 仕切り直すように咳払いした大佐は、改めて僕達の顔を見渡して、ゆっくりと口を開いた。


「・・・それじゃあ、改めて話そうか。私たちは――アメストリスという国からやってきた。だが、こちらの世界には存在しない。そうだね?」
「・・・そうですね。少なくとも、僕らの知るかぎり、アメストリスは架空の国ですから」


 そう、アメストリスは本来存在しないはずで、故に彼らも存在しないはず。
 だけどそれは僕らの出生のこともあるので、別世界に実際に存在していた、ということであろう。
 それはまだ、いい。
 それよりも、僕が今一番疑問なのは、彼・エドワードが何故、僕の名前を知っていたのか、だ。
 ・・・その前にまず、彼らの用件を聞くほうが先だと思ったので、今はまだ保留にしておこうと思う。
 エンヴィが言うように、いい加減話が進まないし・・・ね。


 そうして漸く整った場に、彼らの言葉を何一つ聞き漏らさないようにと、僕らは真剣な表情を大佐に向け、身構えたのだった。




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(2011/6/29)
中途半端な所で強制終了しちゃいました。

申し訳ありませんが、ここからは進みません(自分の考えが変わり、内容が思いつかなくなったので…)
この物語は凍結させていただきます。

主人公の性格や設定を練り直して、改正版を書けるようでしたら頑張ってみるつもりです。
相変わらず自分勝手で、本当に申し訳ありません…

ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました!


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