自分の物語の��終演�≠ﾌ、はじまりはじまり。




　何も無い漆黒の暗闇の中で、何かが微かに動いた。


「･･･じゃ、始めよっか」


　誰かが呟いた。
　何故かは分からない。
　だけど、酷く懐かしく感じた。


「私達は三人で一つなんだよ？」


　その声は突然聞こえ始めたノイズの中へと溶けていく。


「―――った――、――――あえ――よ」


　たくさんのノイズが混じり、その声が聞き取りにくくなっていく。
　もっとよく聞こうと耳をそばだてるが、声は次第に聞こえなくなる。

　また再びその言葉が聞こえたのは唐突だった。


「自分の物語に･･･始まりの終止符を、打つんだ」


　嬉しそうに、声は言った。
　意味を理解する前に、




　――ぷつり




　完全に、音は




　途絶えた――




　◇　◇　◇




「―――っ」


　遠くで、誰かが自分を呼ぶ声が聞こえる。
　だけど、この心地よい暗闇の中から抜け出したくなくて、僕はその鬱陶しい声を無視し続けた。


「―――っーやく、―――ってば！」


　しかし一向にその声は止む気配がなく、むしろ大きくなってきている。
　その声に対して苛立ちを覚え始めた時、身体がひんやりとした冷たい空気に触れた。
　かと思うと、ほぼ同時に、耳元で怒鳴り声がした。


「こんの･･･いい加減起きろぉ！！」
「ふあぁ？！いたっ」


　ゴッという鈍い音とともに、突然頭に鋭い痛みが走った。
　もの凄い叫び声と痛みに、僕はたまらず重たい瞼を開いた。
　すると、目の前には自分と同じ顔をした#kana2#ちゃんが――逆さに立っていた。


「え、え？なんで叶ちゃん逆さに立って･･･るの？」


　未だにぼんやりする意識の中、そのありえない光景の原因を必死に頭をフル回転さて考えた。
　考えだして数秒、ふと、自分の頭に血が昇り始めているのに気が付いた。
　そして僕は、今現在、ベットから上半身がずり落ち頭と床で体重を支えているというかなり危ない格好をしていることに気が付いた。
　慌てて僕は鍛え上げた素晴らしい腹筋で上半身を起こすと、床にぶつけて痛めた部分をさすった。
　よほど激しく打ったのか、少しコブになっている。

　――冷やさないと大変なことになりそうだなぁ･･･

　そんな事を考えていると、近くからはあぁ･･･という盛大な溜息が聞こえた。


「やーっと起きた。ほんともー･･･この寝ぼすけ！日曜だからっていつまで寝てるのよ！」


　嫌味ったらしくそういうのは、安眠妨害した張本人――僕の三つ子の姉である叶ちゃんだ。
　叶ちゃんは長女という事もあり、僕ら姉妹の中で一番しっかりしていて頼りになる存在だ。
　僕は低血圧なため朝が苦手で、よく寝坊をしてしまうのだが、そんな僕をいつも起こしてくれるのも叶ちゃんなのだ。


「叶ちゃんおはよ･･･今回はちょっと痛かったよ･･･」
「折角起こしてあげたのに愚痴愚痴いわないの！もうご飯準備終わってるからちゃっちゃと顔洗ってきなさい！片付かないんだからっ」


　言うが早いか叶ちゃんは踵(きびす)を返してさっさと部屋を出て行ってしまった。
　よく思うことなのだが、叶ちゃんはいいお母さんになれると思う。
　両親が小さいころから居ないからよく分からないけれど、母親が居たらこんな感じなんだと思う。
　それに叶ちゃんって面倒見いいし。
　ぼんやりそんな変な事を考えて、いい加減朝食を食べに行かないとまた叶ちゃんが来ると思い、のろのろと立ち上がった。




　◇　◇　◇




　部屋を出て顔を洗いに廊下を歩いていると、リビングから叶ちゃんと詩ちゃん――三つ子の次女が言い争っているのが聞こえてきた。
　昔は三人とも仲良しだったのに、何故か最近二人はよく喧嘩するようになった。
　いつも些細な事から喧嘩が始まり、時々激しい闘いになったりする。
　今回も、聞こえてくる内容はなんとも馬鹿らしい。

「ご飯に味噌汁をかけるか味噌汁にご飯をかけるか」

　なんて言い争い、今時小学生でもしないんじゃないだろうか･･･
　洗面所にようやくたどり着き、顔を洗うために蛇口をひねる。
　勢いよく出てきた水に少しだけ手を当てる。
　もう夏だというのに、この家の水はきんきんに冷えていて、触れた瞬間に思わず身震いしてしまった。
ここの水が冷たいのは、僕らが住んでいる場所が超田舎だからだといえる。
　しばらくして水の温度にも慣れてきたところで、手で掬い取り、パシャパシャと顔を洗う。
　僕はこの顔を洗っているときが結構好きだ。
　さっぱりするっていうのもあるけれど、冷たくて気持ちがいいし、気が引き締まって今日一日頑張るぞ！と思えるから。

　顔を洗ってすっきりした僕は、そのままリビングに直行した。
　リビングでは相変わらず二人が喧嘩していたけど、いつの間にか激しい喧嘩になり、互いに武器を出して戦い始めた。
　#kana2#ちゃんは飛苦無(とびくない)を、#uta2#ちゃんは名刀菊一文字則宗(きくいちもんじのりむね)を出して。
　たかが喧嘩で大層なもの出してくる二人の気が知れない。
　苦無とか忍具の中でも扱いにくい奴だし、菊一文字って国宝級だし。
　一体どうやって師匠たち盗んで･･････じゃなかった何所から仕入れたんだろう。
　今度聞いてみようかな。
　そして相変わらず喧嘩の内容は小学生並みで醜いよ二人とも。


「一番カッコいいのはエンヴィだっていってるじゃん！」
「何言ってんの！大佐に決まってんでしょ！」
「無能大佐なんて最低だよ！誰彼構わず手ぇ出す最低男！！」
「はんっ大佐の魅力が分からないなんてお子様ね詩！エンヴィなんて三百歳のおじいちゃまじゃない！」


　そんなやり取りが延々と続いている。
　呆れて何もいえない僕はとにかく二人を無視してテーブルに着き、「いただきます」と手を合わせて朝食を食べ始めた。
　ほかほかの白ご飯を口に頬張りもぐもぐと口を動かす。
　しばらくすると口の中にご飯の甘みが充満し、僕は何だか幸せな気分になった。
　ご飯を食べてるときって一番幸せだと思う。
　だって、世界では何日も満足にご飯が食べれなくって死んじゃう人たちが大勢居るわけなのだから。
　その人たちのことを考えると毎日美味しいご飯がお腹いっぱい食べれる僕は幸せ者だよな、と思う。
　まあ、深くは考えて無いのだけど。
　実際には想像しようもないのだから。
　そんな風に幸せな朝食タイムを楽しんでいる僕の頭上を、苦無や手裏剣、はたまた小刀などの凶器が飛び交い始めた。
　いつのもことながら少しうるさい。
　自身も身の危険に晒されてはいるが、いつもの事なので気にせずにレタスに箸を伸ばした。

　そ の 時


　ぱりんっ


「「あ･･････」」


　流れ弾ならぬ流れ手裏剣が見事に食べ物の入ったお皿の真ん中にクリーンヒットし。
　今まさに手をつけようとしたレタス共々ぱっくりと割れてしまった。
　大好きな野菜が一口も食べることなく駄目になってしまって――

　僕の中で、何かが切れた。


「･･･ねえ、二人とも」


　僕はくるりと首だけ回し、満面の笑みで二人を見た。
　一瞬二人の肩がびくっと揺れたような気がしたけれど、気にせず僕は言葉を続けた。


「手足全ての爪の間にすこーしずつ、ゆっくりゆーっくりと針を刺されるのと、冷水かぶった後に熱湯かぶる、そしてすぐさま冷水ぶっかけられる無限ループ･･･ねえ、ど っ ち が 好・き ？」

「「やめて下さいごめんなさいすみません自分達が悪かったですーっ！！」」

「･･････はぁ･･･まあ、いいや･･･僕の野菜･･･」


　クスクス笑いながら言うと、二人は間髪入れずに土下座のオプション付きで謝罪の言葉を述べてきた。
　少しだけ期待していた僕は、ちょっと残念に思いながら（本当にちょっとだけ）朝食の無残な姿を見つめて溜息をついた。
　此処最近この二人のせいでゆっくりとご飯を食べることも本を読むことも出来ていない気がする。
　喧嘩するのは別にいいけど、僕を巻き込まないで欲しいと切実に思う。
　いい加減僕も許容範囲の限界を超えそうだ。


「喧嘩するのはいいけど、光物だけは止めてっていってるじゃん」
「うん･･･ほんとにごめんね空･･･」
「今度から喧嘩する時は出さないわ･･････」
「二人とも毎回そういって毎回見事に約束破ってるよね」
「「ぎくっ」」
「いや、効果音言葉に出して言わなくていいからね。てかね、お願いだから、今度から外でやってくれる？」
「･･････ええ。なるべく努力するわ、空」
「空のお願いなら･･･空の報復とかそういうのは勘弁だし」


　そういって、二人は醜い争いを止め、いそいそと武器の片付けを始めた。
　それを横目で見つつ、僕は中断された食事を再開した。
　叶ちゃんの料理は相変わらず美味しいのだけれど、先程のこともあって食事のスピードが明らかに落ち、口に放り込んだプチトマト（一つだけ無事だった）をゆっくりと咀嚼(そしゃく)した。
　そうやってぼんやりしながら食事をしていたけれど、ふと、何かが頭の隅を掠めた。
　なんだっただろう、何かが、今日は何かがあった気がする。
　これをすっぽかしたら命の危険にさらされてしまうような、そんな大事な約束が……

　……
　………
　…………あ。


「あ゛」
「空？どしたの？」
「･････････師匠たちのところに･･･十時集合･･････今日、だった、け？」
「「･･････あ゛」」


　みんな僕の言葉で固まる。
　そしてリビングの時計をばっと見ると、針は十時三分前をさしている。
　体中に嫌な汗が吹きだした。
　そうして固まっている間にも、無常にも時は進んでいて。


「や、」


　誰かの口からか声が漏れた。
　自分かもしれなかったけど、そんな事考えれるはずもなく。

　僕は無言で勢いよく席を立つ。
　詩ちゃんも叶ちゃんも僕と同様立ち上がると一斉に玄関へ走って行き―――


　全速力で走り出した。


　ええ、走りましたとも。
　途中人を撥ねた気もしたけどそんなのに構ってられなくて、ただただ前を見て走っていた。
　その時、心の中で思っていたことは唯一つ。

　殺　さ　れ　る　！

　後日聞いたことなんだけど、撥ねてしまったのは僕の友人だったらしい。
　吹っ飛んだけど近くの草むらに落ちたらしく、怪我はなかったそうだ。
　謝りに行ったときのさわやかずぎる笑顔が痛かった･･･
　そしてがたがた震えながら必死の形相で走っていく僕らをみたご老体の方々は、腰を抜かして動けなかったとか何とか。
　･･････ごめんなさい！





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キャラでてないしこれただの名前変換小説だよ夢じゃないよ。
たぶんあと三〜四話ぐらいであの人に会います。
てか会わせますとも！
じゃなきゃ話が進まない……っ

この作品を書いて私は改めて切実に文才が欲しいと思いました。
画力も欲しいね☆(欲張りめ)

(06/8/1 訂正 08/12/23)