▼凄い腹痛に悩まされた日
じいーっと、それこそ穴があくほど、私はあるものを見つめていた。
視線の先にあるもの、それは私の今晩のご飯だった。
いつものようにホットミルクと奈々さんお手製お粥(残りものだけど、毎日違う魚と野菜が混ぜ合わせてあって中々美味しい)が、平たいプラスチック製容器と「わたあめ」と書かれたステンレス製のペット用容器(因みに両方とも百均だ)に入っている。
奈々さんお手製お粥は、私がキャットフードを食べることを拒否したために作られるようになったものだ。(ちょっと罪悪感が拭えない・・・・・・)
ただ、今日は。
奈々さんお手製お粥が、それだけがいつもと様子が違った。
いつもは美味しそうな匂いと共に温かな湯気がたっているのだが・・・・・・
今目の前にあるそれは端から見てもそれは毒々しい色をしていて、何か蝸ヶ(まがまが)しい紫色の煙を発していた。
何か虫のような物が蠢いている気がするのは気のせいだろうか。
というか、一体、これはどういうことだろうか。
新手のいじめか。
これはもう、食べたら確実にお腹を壊しそうだ。
最悪死ぬかもしれない。
それほどまでにそれは食べ物と呼ぶには相応しくない、むしろ毒物といっても過言ではない物体だった。
仮に体調不良だとしてもここまで酷いものを作れるものだろうか・・・・・・
そんな風に思考がループしていつまでも固まっていると、いつの間にか隣に来ていたビアンキさんが声を掛けてきた。
「あら、まだ食べてなかったのね。せっかく私が作ってあげたのに・・・・・・ママンが作ったのじゃなきゃ嫌なのかしら?」
途中、なにやら不吉な言葉を独り言のようにぼやいていた。
それを聞いて、私はひくりと髭を動かした。
(・・・・・・え、これ、もしかして・・・ビアンキさんが作ったの・・・・・・?)
その事実に私はショックを受けた。
だって、ビアンキさんはとても美人で大人で、家事もテキパキこなすクールな女性なので、実は密かに憧れていたのだ。
しかしその憧れの彼女は、料理だけは壊滅的だったらしい。
いや、それよりもどうやったらこんな物が作れるのか逆に教えてもらいたい。
どうやったら食べるかしら、なんて恐ろしい呟きが上から降ってき、身をさらに強張らせていると、食事が終わったらしい綱吉君が私達の元へとやってきた。
「あれ、どうしたんだ?」
不思議そうに声を掛けてきた彼をちらりと見上げ、ご飯に視線を戻す。
つられるように綱吉君も餌箱の方を見た。
「・・・・・・にゃふー・・・(あれ、食べれると思う・・・?)」
「・・・・・・・・・げっ」
それを見た綱吉君も、私同様固まってしまった。
口元をひくつかせながら餌箱を見ていたかと思うと、彼は突然ビアンキさんに向かって叫んだ。
「ビアンキ!ポイズン・クッキング食べさせようとしするなよ!わたあめを殺す気か?!」
それを聞いた瞬間、私は心底食べなくてよかったと思った。
というかポイズン・クッキングとはなんて不吉な名前なんだろう。
毒の料理なんて、そんな物絶対食べたら死ぬに決まっている。
いくらビアンキさんが作ってくれたといっても、こんなものの側に長居したくはなくて、近くにあった箪笥の上にそそくさと避難した。
「失礼ね。今日はママンが大変そうだったから私がわたあめの餌を作ってあげただけよ」
「気持ちだけでいいから!こんなもの食べちゃったら子猫なんだし死んじゃうって!」
「大丈夫よ、猫は強いわ」
「どんな根拠があってそんなこと・・・・・・」
「にゃう〜っ(ほんとだよ・・・・・・!!)」
綱吉君に激しく同意して首・・・・・・は無理だったので尻尾を振りつつ鳴くと、ビアンキさんは私が箪笥の上に避難しているのに今気が付いたようで、口論を一旦中止してからこちらを見た。
「あら?・・・・・・まあ困った子ね、そんな所に昇って・・・・・・わたあめ、ご飯を食べなさい」
「いや、その、だから食べたら死ぬ・・・」
「そんなことないわ。なんならツナ、貴方が食べる?」
「・・・・・・は?!いや、え、遠慮します!」
(・・・・・・頭痛くなってきた)
軽く頭痛を覚えて頭を振った。
けれど、ただでさえ大変そうな綱吉君に私なんかのせいでさらに負担がかかってしまうことを危惧し、私は箪笥の上からとん、と飛び降りた。
そして私は腹を括った。
(大丈夫、私はいける。そうよ麻里、いえわたあめ、綱吉君に迷惑かけないためにも、食べろ、食べるのよ・・・・・・!)
頭の中でぐるぐるとそんな台詞が駆け巡る。
自己暗示を必死にかけ、大きく深呼吸を一つした。
ビアンキさんの後ろで綱吉君が顔面蒼白になっているのが見えて、彼はやっぱり優しいな、と場違いな事を思っていた。
恐る恐る、そのご飯に顔を近付ける。
改めて見ても、やはり何と言うか・・・・・・そう、グロテスク、とでもいうのだろうか。
あまりの毒々しさに思わず身震いしてしまったが、彼のためだと自分に再度言い聞かせ。
目をギュッとつむりながら、口を開いて。
勢いよく。
一 口 た べ た 。
――その後私がどうなったかは・・・・・・言うまでもない。
ただ一つだけいうのなら。
私は奈々さんの作ってくれるご飯が、一番好きだ!
(ついでに、キャットフード、食べるようになったよ。意外と美味しかったよ)
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(拍手掲載2007/11/26〜2008/02/18)
ビアンキのポイズン・クッキング話。
その後本能的にビアンキを避けるようになった夢主。
あれは料理じゃないですよね。
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