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そっと中を覗くと、ふかふかとしたタオルが底一面に敷かれていた。
ぱっと見ただけではなにも居ないように見えたが、よく見てみると、白いふわふわしたものが隅で震えながら小さく丸まっていた。
その白い生き物は、光が差し込んだ事に驚いたようで、目を丸くしてこちらを見て固まっていた。
その瞳の色は綺麗に澄んだ翡翠で、思わず見惚れてしまうほどだった。
それに惹かれるように手を伸ばすと、固まっていた子猫は一瞬身を強張らせて、素早く私の手を引っ掻いた。
「っつ!」
反射的に手を引っ込めてしまい、手のやり場にしばし悩んでしまった。
手を見ると、子猫といっても爪は立派に伸びているようで、引っ掻かれた場所には赤い線が二本入り、じわりと痛んで。
蚯蚓(みみず)脹れになるな、と思いながら、もう一度、今度は子猫に近すぎない所からそっと手を差し延べた。
「・・・おいで」
やはり警戒しているのか小さな体で一生懸命毛を逆立てて威嚇していたが、しばらく手を動かさずそのままでいた。
やがて、恐る恐る近づいてきた。
流石に一気には近づいてこなくて、何度か前足で軽く引っ掻くようにして、触れてきた。
爪を出していないので痛くはなかったが、少しくすぐったくて、私は小さく微笑む。
害はないとわかったのか、子猫はいくらか緊張の解けたようで手に擦り寄ってきた。
手に触れたそれは、見た目通り柔らかな毛並みで、暖かく、生きていることを感じさせてくれる。
子猫の警戒が幾分和らいだ所で、そのふわふわの頭を撫でてみた。
いきなり私の手が動いたのにびっくりした様子だったが、直ぐに気持ち良さそうに目を細め、ぐいぐいとその小さな頭を擦りつけてきた。
「っか・・・!かわ、可愛い・・・!」
不意打ちともいえるその仕種がクリーンヒットし、私の理性は綺麗に吹き飛んだ。
同時になんだこのかわいい生物は!と心の中で叫ぶ。
そしてそのままの勢いで、私はもう一方の手も箱の中に突っ込むと、子猫を優しく、だけどすごい勢いで抱き上げた。
幸せそうな顔をしていたその小動物は、さっき以上に驚いたらしく、大きな眼をさらに大きく、真ん丸に見開いていた。
だけど私はそんな事はお構いなしに、自分の欲望のまま(というか欲望に忠実に)、その子猫のふわふわ頭に頬擦りを送る。
「ああもうこの子可愛すぎるよ、連れて帰りたい!いや、連れて帰るわー!」
あまりにも愛らしい仕種についつい押さえていたものが爆発してしまった。
普段の私を知っている人が見れば、きっと別人だと思うだろう。
なんせ私は人見知りが激しく、仲のいい友達以外の人とはほとんど喋る事もない。
話し掛けられれば受け答えはするが、緊張のし過ぎでそれ以上言葉が出ず、友人にこっそりヘルプを出して助けてもらったりしている。
なのできっとクラスメイトなどは、私は大人しい部類に分けられていると思うのだ。
いや、実際大人しい方だと自分でも思うが。
だけど、そんな私も動物は別だ。
何と言っても動物は可愛いし、見ているだけで癒される。
特に猫は別格だ。(そう、軽く理性が飛ぶほど!)
話が長くなったけれど、兎に角私は猫が好きなのだ。
突然頬擦りをしだした私にびっくりしたようで身体を強張らせていたけれど、暫くすると、子猫は頬擦りをしかえしてきた。
「うあ、ああもう・・・!!(な、なんて可愛いのー!)」
「ぅに゛ゃ!?」
「え、あ、ごめん!痛かった?」
あんまり可愛いものだから、思わず抱いている腕に力が入ってしまったようで。
慌てて謝ったけれど、なんだか子猫が恨めしげにみた・・・・・・気がした。(多分きっと気のせいだ)
そうやって子猫と戯れていて、ふと、家の隣に空き地があっるのを思い出した。
・・・・・・あそこなら、もしかしたら隠れて飼ってあげることが出来るかもしれない。
猫って晩御飯の残りとかでも確か・・・大丈夫だったはずだし。
よし!と、少し気合いをいれる。
思い立ったらすぐ行動がモットーの私は、置いていた鞄を拾い、子猫を抱いたまますっくと立ち上がった。
ニッ!と小さく鳴き声基悲鳴が聞こえたけど、そこは我慢してもらおう。
そして、鞄を一度掛け直して、さあ帰ろう!と入り口を振り向こうとした、そのときだった。
「・・・麻里?そこで何してるの?」
今、一番聞きたくない人の声が、聞こえた。
「お・・・お母、さん・・・・・・?」
ぎぎぎっと音がしそうなほど、私の首はぎこちなく、声が聞こえた方向――背後の、今まさに振り向こうとした、公園の入り口へと向いた。
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