1.捨てを拾った今日


 その日も、私は学校からの帰り道をいつもの様に帰っていた。


「じゃあばいばい!」
「うん、また明日ねー」


 部活も特に所属していない私は友人に別れを告げるとざわざわと煩い校舎内を縫うように移動し、校門まで早足で歩いていく。
 ホームルームが終わって間もない時間だったため外に居る人は疎(まば)らで、歩くのにさして苦労はしなかった。
 別にこれといった用事は無いのだけれど、習慣的に私はいつも早く家に帰るのだ。
 校門を出ると生暖かい風が肌を撫で、空からは強い日差しが降り注ぎ肌をじりじりと焼いていくのが地味に痛い。
 照り付ける太陽を目を細めて恨めしげに一瞥した後、こんなに地球温暖化は進んでいるのかと、わけもなく思った。


 しばらく通い慣れた通学路を半ば無意識に歩いていると、ふと視界の片隅に入った小さい頃よく遊んだ公園が見え、何気なく目をやった。


「(よくここで遊んだなぁ・・・ん?)」


 懐かしく思っているとふと小さな違和感を覚え、入口近くに設置してある少し朽ちた木のベンチの足下に、真新しい段ボール箱が置いてあるのに気が付いた。
 よくみるとその段ボール箱の上にはB5サイズのルーズリーフがセロテープで貼付けられていて、『誰かこの子(子猫)を拾ってください』と黒いマジックペンで大きく記されていて。
 それを見た瞬間、私は可哀相にと思うと同時に無視しようとした。
 例え連れ帰ったとしても私の家には既に犬がいるし、なにより母が猫嫌いなので飼わせてはくれないだろう。(私は大の猫好きなだけど)
 心苦しかったけれど私は心の中で「ごめんね」と言い、後ろ髪を引かれる思いで踵(きびす)を返して家に帰るために再び歩きだした。

 その時だった。


「にゃー・・・」


 背を向けたその段ボール箱から微かに、あまりにも弱々しい声が聞こえた。
 思わず足をぴたりと止め、振り返らずにその場に立ち尽くす。
 なんとか振り返る事だけは踏み留まれたが、根が生えたようにそこから動けなくなった。


「(家では飼えないんだから、振り返っちゃだめ、だめだよ私!)」


 再びあの箱を見たら絶対に拾って帰ってしまうという変な確信があったので、何度も何度も自分に言い聞かせて必死に理性に抗った。
 動かない足を叱咤し、必死に帰り道へ向かおうとする。
 しかしそんな私に追討ちをかけるように子猫は。


「にゃあー・・・」
「・・・・・・・・・」


 結局。


 私はそんな子猫の鳴き声に負けて段ボール箱の近くまで歩いて行ったのだった。
 我ながら猫に甘いと思いつつ、膝を折って屈み込んで改めて段ボール箱を見た。

 未だにか細い鳴き声が聞こえるほか、微かにかりかりという箱を引っ掻くような音が聞こえる。
 蓋はガムテープで止めてあるわけでは無いけれど、貼紙とセロハンテープで一応開かないようにはされていた。
 側面には見覚えのある引っ越し屋のマークがプリントされていて、両脇の上の方に長方形のまあまあ大きい穴が開けられていた。
 猫が通るには小さい穴だったが。
 多分、中にいる子猫が息が出来るようにと空けられた空気穴か何かだろう。
 ここまでこの猫を思いやることが出来るのに、何故こんな風に捨てていってしまうのか疑問でならない。
 捨てるという選択肢以外に何か方法はなかったものだろうか・・・と、顔も分からないこの子猫を捨てた人物を少し恨めしく思う。
 蓋を開けようと伸ばした手を、やはり連れて帰れないし・・・と一瞬躊躇して止めたが、今更な気がして蓋を留めていた貼紙の端のテープを剥がして蓋を開けた。



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