(3/4)
そこにいたのは、紛れもなく自分の母親で・・・
折角隠れて飼う算段をたてたのに、初っぱなから見付かってしまうとは思わなかった・・・なんだってこんなにタイミングが悪いんだろうか。
口元を引きつらせる私を訝しんだ母は、私の手元を見て納得したように頷き、次いで困ったような呆れたような、なんともいえない表情を作った。
「・・・その子猫どうしたの?まさか、飼うなんて言わないわよね・・・?」
「え、えへ。そのまさか・・・だったり・・・」
「駄目」
「うぐ・・・っそ、そんな即答しなくても・・・」
「・・・あのねえ、麻里、分かってると思うけど、うちにはもう犬が2匹も居るでしょう?飼い主が見付かるまでしばらく置いてあげるっていうのも無理よ」
反論は許さないとばかりに畳み掛けてくる母に、口を挟む暇もなく、たじたじになってしまう。
正論だから尚更言い返すこともままならない。
「うう・・・あ、あのさ!家で、なんて言わないから、せめて隣の空き地ででも・・・!」
「麻里の気持ちはよーく分かるわ・・・けれど、駄目なものは駄目よ。家猫として飼ってあげられなければただの野良猫なのよ?普通に飼ってもらえる人の手に渡ったほうが、その子も幸せになれるわ」
「う・・・っ」
ごもっともである。
「それに、余所様のお宅の庭で粗相したり、餌付けしてると他の野良猫まで集まったりするかもしれない。そうなったら、近所迷惑にだってなるのよ・・・今の家(うち)みたいに」
「ううう・・・っ」
そういわれてしまえば、もう何も言い返せなかった。
なんせ母の言う通り、我が家は現在進行形で野良猫被害にあっているのだから。
――実は、我が家のご近所さんに、何匹もの野良猫に餌をやって飼い猫のように接しているにもかかわらず、「飼っていない」と言い張る・・・その、なんとも迷惑な人が住んでいる。
猫という生き物は自分のテリトリー以外で用をたすようで、気付くと我が家や他の家の庭に糞が落ちていたり、せっかく植えた植木の花を掘り返されていたりと、猫たちは実に困った行動を日々繰り返してくれている。
家猫や、そのご近所さんの野良猫も何匹かはそんな事をしないのだけど、まあ・・・大半の野良猫は我が家だったり、他の家だったりを荒らし回っていくので、一度町内会でそのご近所さんに
「面倒をみないのなら餌をあげないでくれませんか?近辺住人の迷惑になっていますから。お願いします」
などと注意を促したらしい。
・・・だが、ご近所さん曰く。
「飼っていないし、勝手に集まってくるだけだから自分には関係ない」
と主張するばかりで、ほとほと困っているのだ。
そのせいもあって、母は猫がとても嫌いになったのだけど。
猫自体は、本当に、本当に大好きだ。
それでも、よくよく考えれば私がしようとしていたことは、ご近所さんと同じ事で。
そう考えると、もう、どうしようもなくて、うなだれるしかなかった。
でも、でも。
このままここに居たら、この子は一体どうなってしまうのだろう・・・最悪、保健所行きになってしまうのではないだろうか、飢え死んでしまわないだろうか・・・
そう思う反面、母の言うことも納得できて、どうすればいいのか途方に暮れてしまった。
「・・・麻里」
困ったように名前を呼ばれて、私は心底参ってしまった。
←|→