「ルーク」
「陛下!?なんでここに・・・って、もしかして・・・また脱走してきたんですか?」
「おう、そんな所だ」
笑って返せば、ほどほどにしてくださいね、と苦笑しながらも部屋に招き入れてくれた。
そうしていつものように二人でベッドに腰掛けて、他愛もない話をした。
俺達は互いに想いあっている――まあ、いわゆる相思相愛だ。
自惚れでない、と自負している。
けれど、俺もルークも、はっきりと言葉に出して想いを告げたことはない。
それは互いの身分であったり、様々な柵(しがらみ)のせいであったり。
しばらく互いの近況だとか、何をしたあれをした、なんて話をしていた。
ひと時の逢瀬を堪能し、幸せに浸っていたが、気がつくと帰らなければいけない時間になってしまっていた。
別れを惜しむように、俺は柔らかな朱毛を優しく撫で、じゃあな、と笑って踵(きびす)を返す。
またな、と言えない自分に内心腹立たしく思いながら。
一歩、踏み出そうとした。
けれど、己の服が僅かに引かれ、慌てて停止した。
つんのめりながら、一体どこに引っ掛かったのだろうと後ろを見ると、服の端を、綺麗な手(といっても、戦闘等で剣だこや小さな傷が付いしまっている)が掴んでいた。
その手の主――ルークの顔をみると、何故か自分と同じように驚いた表情をしていた。
「・・・ルーク?」
名前を呼ぶと、彼ははっとして手を離し、ひどく狼狽えた。
「あ、あれ?なんで俺・・・ええと、あの、ほんとすみません・・・!」
しどろもどろになりながら言い訳をする彼のその様が、たまらなく、いとおしく思った。
そう思った瞬間。
自分の中で、何かが切れる、音がした。
――彼のことが好きで堪らない。
好きで好きで愛しくて、けれど自分の立場故、想いを告げてやる事すら叶わない。
それがどんなに歯痒いか。
ただのピオニーであったならと、何度、何度思ったことか!
一気に色々な想いが爆発して、気付いた時には手が延びて、己の腕の中に閉じ込めていた。
「っぅわ!ピ・・・ピオニー陛下?!」
「・・・すまん、ルーク・・・少し、もう少しだけ、このままで居させてくれ・・・・・・」
「え、ちょ・・・・・・へい、か・・・?」
戸惑うルークを無視して、強く強く抱きしめる。
俺が一国の王で有る限り、国民の上に立つ者として、その行動に責任を負わなければならない。
ルーク、お前が想いを寄せてくれている事ががどれほど嬉しいか。
ああ、まやかしでも嘘でも、お前が愛しいと、愛していると言ってやれなくて――
(だからせめて、今、抱きしめることだけは赦して)
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(2008/11/25執筆 09/1/5掲載)