長くて細い、けれど意外と逞しい指が、ぱらりとページをめくる。
 眼鏡の奥の紅い瞳は流れるように文字を追い、時々欝陶しそうに、頬に零れ落ちてくるブラウンの髪を耳にかける。
 なにもかもが清廉されたような無駄のない動作と、その整った容姿を飽きもせずにみつめていると、不意に見つめていた彼が動きを止めた。
 不思議に思っていたら、何故か彼は小さくため息をついた。


「・・・?ジェイド?どうしたんだ?」
「いえ、なんでもありません。先程から誰かさんの視線が痛くて集中出来ないだけですよ。・・・なにか用があるのですか?」
「え!あ、ごめん!別に用はないんだけど・・・」
「・・・・・・では、なんなんです」


 眉をひそめて怪訝そうに見られると、中々言いにくい。
 けれど答えなければ後でお仕置きという名の実験台にされるのは目に見えていたので、素直に白状した。


「いや、その・・・ジェイドって普通にしてても綺麗だけど、本読んでる時はもっと綺麗でかっこいいなー、なんて、思って・・・・・・あの、視線が外せなくなったっていうか・・・・・・」


 しどろもどろにそう答えると、何故か彼は面食らったように僅かに目を見開いて。
 驚いているらしい彼に、珍しいものがみれたと思う反面、どうしてそんなに驚くのかわからなかった。
 かと思うと、今度はふっと表情を和らげた。


「おやおや、そんなに見惚れるほど男前でしたか?」


 軽口を言いつつ彼が浮かべた表情は、なんとも言えない優しい笑み。
 いつもの食えない笑みではない、慈愛とかそんなものが篭められているような、とても綺麗な、心からの微笑みで。
 そんな表情を向けられて、なんだか嬉しいような、恥ずかしいようなむず痒い気持ちになたりながらも、俺の口元も自然と緩んだ。


 きっと、彼をよく知る人物でさえ気付かないだろうその表情。
 彼は時々、本当に稀に、こうして微笑んでくれる。
 いつからだったか、それが自分だけに向けられていて、自分だけが気付いていると分かった時、なんとも言えない優越感が生まれた。

 なんだか、俺が彼の特別になれたような気がして。
 だからそれを独占出来る嬉しさと同時に、誰かに自慢したい気持ちも膨らむ。


 でも、やっぱり。




(絶対他の人なんかに、教えてやらない!)




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(2008/4/29執筆 09/1/3サイト掲載)
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