顔を合わせれば何かと喧嘩をして、でも何かあれば、不器用に心配してくれる。
そんな彼が好きだ。
いつもの夢にうなされて、眠れなくて宿を抜け出した。
夜の町はとても寒く、何も考えずに飛び出して来た俺はなにも羽織っていなかったので、両手で剥き出しの腕を摩りながら道を歩いていた。
少しして広場にたどり着くと、何故かそこには紅い髪の彼がいた。
「・・・・・・アッシュ?こんな時間にこんな所でなにやってんだ?」
「・・・フン、たまたま近くを通っただけだ。テメェこそ何してんだ」
疑問を疑問で返されて、俺は何も言えなくなった。
言葉につまって黙り込んだ俺に、アッシュは小ばかにしたように、また鼻を鳴らした。
「まあ、テメェの考えてる事なんざ知ったことじゃねえがな」
「・・・・・・」
そんなアッシュに、いつものように憎まれ口をたたく元気さえなくて俯いていると、大きな溜め息が聞こえてきた。
呆れられてしまったのかと思い、肩を小さく揺らした時。
頭からばさっと何か大きな布を被せられた。
「うわ!なにす・・・・・・って、これ、アッシュの外套・・・?」
慌てて外したその布は、先程までアッシュが身につけていた外套だった。
突然の事に目を丸くしてアッシュを見ると、そっぽを向きながらまたいつものように鼻を小さく鳴らした。
「何を考えてるかなんてどうでもいいが、風邪でも引かれたらテメェの仲間達が煩いからな」
「で、でもアッシュだって寒いだろ?!」
「俺はテメェとは体の作りが違うんだよ。やわな劣等レプリカと一緒にするんじゃねえ」
そう言って彼はそっぽを向いてしまった。
暗がりだったのでよく分からなかったけれど、その顔が赤く染まって見えたのはきっと気のせいではないだろう。
そう思うと、なんだか自分まで恥ずかしくなってきて、顔に熱が集まってきて、暫く二人とも無言になってしまった。
その沈黙はけして不快なものじゃなくて。
そのあとやはり無言で宿に戻ったけれど、その日はもう、悪夢にうなされることはなかった。
顔を合わせると挨拶よりも憎まれ口が先、でも乱暴な言葉とは裏腹に優しく接してくれる、そんな彼に愛しさが募って。
(不器用に優しい、そんなあなたがたまらなく好き)
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(2008/4/28 ブログから移行 09/1/2)