復活(ツナ+リボーン)
五年後の未来話





 とうとう明日。

 明日の朝、イタリアへ発つ。
 昔はあんなにも拒んでいた土地へ、今は自分の意志で、向かおうとしている。

 目の前に置かれたスーツケースに、溢れるほどある必需品や皆がくれた餞別を押し込んだ。
 無理にねじ込んだせいでなかなか閉じない蓋に、体重をかけて押さえ付けた。
 そして、何重にも付けられた鍵を、ひとつひとつ丁寧にロックしていく。


 がちゃり。


 全体を閉じるための大きな鍵を掛ける。
 もう逃げられない、もう立ち止まることはできないのだと、自分に言い聞かせて。


 がちゃり。


 大きな鍵の両脇に付いた、二つの小さな鍵穴にもロックを掛ける。
 自分に付いてきてくれると言った、彼らの顔を思い浮べる。

 初めて自分に忠誠を誓ってくれた彼や、我が家の住み込み家庭教師を狙ってやってきた小さなヒットマンは、元々マフィアだった。
 けれど。

 プロ野球を目指していた、心優しい親友。
 誰よりも強く、並盛の町を愛している孤高の風紀委員長。
 心の支えで、太陽のような、憧れだった彼女(ひと)。
 ボクシングに全てを捧げ、いつでも全力で生きている、憧れだった彼女(ひと)のお兄さん。
 ドンの妻になると胸を張って語る彼女(ひと)。

 一般人だった彼らを巻き込んでしまった事、傷付けてしまった事、それが今でも心苦しい。


 がちゃり。


 マフィアに憎悪し、世界に絶望し、世界に復讐するために俺の身体を狙い続ける彼。
 そんな彼に救われ命を捧げる、仲間想いで献身的な、心優しい彼女。
 そして、彼らの唯一無二の、家族ともいうべき二人の仲間。

 できるなら、マフィアになんて関わらせたくなかった。
 これ以上、彼らに楔を増やしたくは、なかった。


 ―――がちゃり。


 ゆっくりと目を閉じて、心に鍵を掛ける。
 一際厳重に鎖でぐるぐる巻きにして、幾つもの感情や想いに錠を掛けた。


 恐れ、悲しみ、怒りや憎しみ。
 優しさ、思い出、願いと希望。
 そして・・・心に秘めた、平凡な、夢。


 ―――ボンゴレの頂に腰を据えると、決めたのだ。
 今までのように生ぬるい想いがあると、敵に情けをかけてしまうだろうし、舐められてファミリーを危機に陥れる可能性だってある。
 自分は、ドンに、ボンゴレのボスに、なるのだ。
 だから俺はファミリーの為にも、もっと冷静に、もっと、非情にならなければ――・・・




 二度と開かない事を確認して、再び目を開いた。
 住み慣れた部屋が目の前に広がる。
 いつも誰かがいて、あんなにも散らかって狭かったのに、トランクに詰めるだけ詰めてしまうと、意外に物が少なく、がらんとしていて寂しく感じた。

 じぃっと部屋を眺めていると、いつの間に居たのか、小さな家庭教師が傍らに佇んでいた。


「準備は終わったのか?」
「・・・うん」
「そうか・・・ちょうど飯もできたぞ。ママンが呼んでる」
「あれ、もうそんな時間?・・・・・・明日は早いし、母さんの料理が食べられるのもこれで最後かな・・・」


 なんとなくしみじみと呟いて感傷に浸った後、よっこらしょ、なんておっさん臭い掛け声と共に立ち上がった。
 そんな自分をじっと見つめる視線には気付かないふりをして、扉を開けて廊下に出る。
 いつもなら、呼びにきた彼も一緒に付いて来るのに、何故か見つめてくるだけで、その場から動こうとはしなかった。


「・・・リボーン?ご飯食べに行かないのか?」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・取り敢えず、俺、先に行っとくからな」
「・・・ああ」


 問い掛けても何も答えず、動こうともしない彼に疑問を感じたけれど、特に言及はしなかった。
 じっとこちらを見ていた彼は短く返事を返した後、シルクハットを目深にかぶり、俯いてしまった。
 こんな時の彼に何を言っても無駄だと経験から分かっていたので、そのまま廊下を歩き、階段の手前まで移動する。
 今日の夕飯は何かな、なんて他愛もない事を考えながら階段を一歩降りたとき、大きくない、けれど小さくもない呟きが、耳に届いた。


「・・・――逃げても、いいんだぞ」


 それを聞いた瞬間、腹を抱えて笑いたい衝動に駆られた。


 今の今まで、お前をボスにすると、逃げることは許さないと呪咀の如く言い続けたその口が、今更、今更逃げていいだなんて!

 ああ、ああ!
 なんと愚かな!
 なんと皮肉な台詞だろうか!


 溢れだす笑いを喉の奥に押し込んで、努めて平静を装って、言葉を返す。


「そんなの、今更じゃない?ねえ、リボーン?」


 ああ。
 口元が、意図せずに歪んでゆく。
 ああ。
 全てが、全てが歪んで――・・・


「・・・それ。どうせなら五年前に言って欲しかったよ!」


 そう言った自分の声は、とうとう堪えきれずに、ほんの少しだけ、震えていた。
 それでも尚、動こうとはしない彼を見向きもせず。

 俺はクツクツと喉を鳴らして笑いながら、今度こそ、階段を掛け降りていった。




(堪えきれなかったのは、本当に嘲笑だけだっただろうか)




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(2009/10/8)
なんとなく数日前に病んだときに、突発的に出てきたので。
昔みた御題がふと浮かんだので、そのまま組み込んでみただけというお手軽さ←
あっれー、この御題は夢で使おうと思ってたのry

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