Re, Re, Re. 03
一年。
私が再びこの世に生を受けて丁度一年が過ぎた。
完璧にとはいかないまでも、私は譜術をそこそこ使えるようになっていた。
そこに至るまで、本当に、本当に大変だった。
それこそ・・・血の滲むような努力をした。
そして、これで私も立派なファンタジー世界の住人の仲間入りをしたわけである。
ああ、さよなら科学技術の発達した第一の故郷、太陽系第3惑星地球。
こんにちは非科学的な魔法に魔物が蔓延る第二の故郷、オールドラント。
もう現実逃避すら出来ないところまできてしまった。
頭のどこかでは、未だにこの現状に拒否反応が出てしまう。
でも、本当はとっくにこの有り得ない事態を受け入れてしまっていたりする。
そうでもなければ今頃発狂しているだろう。
意外と私は順応が早いらしい。
それはそうと、魔法こと譜術特訓の合間、もう無理!と訴えると共に、何故私にこんなに手間をかけるのか、と母様に聞いてみた。
「か、母様・・・っもう無理です!なんで私にだけ、こんな事をさせるんですか・・・!」
「ああ、それはな、カノン。お前は生まれた時から知識に貪欲だっただろう?」
「は、はあ・・・・・・(それは単に、現状を理解しようと必死だっただけなんだけど・・・!)」
「そんなお前をみてな、昔の私に似ていると感じたんだ。きっと将来、お前は誰よりも賢くなるだろう」
「え、あ、ありがとうございます・・・?」
「・・・それでだな、実はまだ私の次につけるような長候補が見付かっていなくて困っているんだよ」
「・・・・・・ま、まさか私を次のライガクイーンにしようとか、考えてないです、よね?」
「ああ、我が娘よ、察しがよくて嬉しい限りだ」
「っそれだけは、それだけは絶対嫌だあああーーー!だいたい私に群を統率することなんて出来ないしそんな器じゃありませんってば!ていうか気に入る候補が居ないからって生まれて間もない娘をクイーンに育て上げようとかそんなくだらない考えからきてるでしょう!
絶対面白がってるでしょう か あ さ ま !!
っていうかクイーンじゃなくてキングじゃ駄目なの?!今からでも遅くないですからライガキング1世を立てちゃえばいいじゃないですか!?ねえ母様!」
「ふふ、そんな事を言う所も昔の私にそっくりだ。因みにキングは我らライガの性質上無理だ。お前に拒否権はないからな」
「イヤー!母様の鬼ーーー!!」
そんな感じで、母様は私をいいように育て、ライガクイーンに仕立て上げる気満々でした。
なんなんだ、さりげなく光源氏計画発言まで聞こえたのだけれど気のせいだろうか。(というか誰か否定して!)
ライガクイーンなんぞになりたくなくてしばらく反論していたが、のらりくらりとかわされてしまった。
こんなところは流石リーダーを勤めているだけあるなと感心する反面、母親としては最低なんじゃないだろうかと内心愚痴た。
その後、何かを察した母様にしっかりと扱かれたが。
そういえば、先程の母様との会話から分かるように、私は何故か生前(ホモサピエンスだった頃)と同じ花音・・・いや、カノンという名を付けられた。
これは本当に不思議だったけれど、慣れた名前の方が何かと便利だったため、あまり深く考えるのはやめた。
正直もうどうでもいいというか・・・・・・
輪廻転生という概念などを考えたら、もともと私の魂には、どんな姿形になっても“カノン”という名前が付けられる運命だったのかもしれない。
そう思うとどこかしっくりきたので、その時点で思考は投げたのだ。
そもそも前世の記憶をそっくりそのまま引き継いで転生、なんてありえない体験をしているので、これ以上驚きようもないのかもしれない。
名前といえば、私は母様の名前を聞いたことがない。
それで不便を感じたことはないが、名前以外に私が知ったこと・・・“母様”こと、我らがライガクイーンと今の私の家族について少し語ろうと思う。
母様はライガクイーンという立場上かどうかは知らないが、体が通常のライガよりもふたまわり以上大きい。
その影響か、ただ単に母様が子供好きだからなのか・・・(多分後者が大半を占める)
母様はとても子持ちで、私には兄姉が大勢いたりする。
その数なんと――100以上。
母様、多すぎ、頑張りすぎ。
今の所私が一番下なのだが、この前母様がまた子供が欲しい、というニュアンスの言葉をぼやいていたのを聞いてしまったので、きっといつか弟妹が増えることだろう。
上の兄姉達は既に独り立ちしているものが多くて、世界各地に進出しては食糧を狩って持ってきてくれる。
言わば、彼らは社会人であり人生の先輩だ。
もしかしたら兄姉達の中にも譜術を教え込まされたりしたものがいるかも、なんて淡い希望をもって聞いてみたが、結果はゼロ。
誰も譜術なんてものは母様から直々に教え込まされたことがないとか。
逆に次期ライガクイーン候補はカノンになったんだね、おめでとうなんて言われたりもした。
――ちょっとまてや母様こんなにたくさん子供いるのにリーダー候補ってもしかして私一匹だけですかそうですかなんか可笑しくないねえなんか可笑しいよねだって私より優秀そうなお兄さんお姉さんいっぱいいるのにリーダー候補が生まれて一年しかたってない若輩者の一匹しかいないってどういうことですかちくしょおおおお!
と思ったのは間違いじゃないはずだ。
嘆いていると、何かを察した兄姉達が哀愁漂う眼差しで見つめ、私の肩をそっとたたいていったり、お土産(珍しい木の実や花が多かった)を持って帰ってくれるようになった。
その度彼らの優しさに感動すると同時に、憂鬱になったのは、また別の話である。
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(執筆2008/12/4 掲載09/1/4)
ようやく名前変換でた・・・!
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