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程なくして、そんな俺の前に、突如まばゆい光りが現れた。
それは徐々に人のような形を成していき、ゆらゆらと揺らめいていた。
それが何なのかはすぐに分かった。
生まれてからずっと感じていた、自分と同じものだったから。
「・・・ローレライ」
「我が見た未来が、僅かでも覆されるとは・・・・・・驚嘆に値する」
直接頭に響く声は、いつものように頭痛を伴わなかった。
それが少し不思議だったけれど、そんなことは今はどうでもよかった。
ローレライが無事に解放されていたことに安堵し、小さく笑みを零す。
そのまま彼(性別があるのか、それ以前に第七音素(セブンスフォニム)の意識集合体をそう称して良いのかは不明だが)は音譜帯に還るだろうと思っていたが、予想に反して何故か彼はそこに留まり続けた。
「ローレライ・・・・・・?」
訝しんで名を呼んでもローレライは沈黙したまま応えない。
その間はそう長くない時間だったのだけれど、酷く長く感じられた。
漸(ようや)く口を開いたと思ったら、彼は何故か俺に問い掛けてきた。
「消滅を受け入れるのか」
いきなりそんなことを言ってきたローレライに驚いて、軽く目を見張った。
しかし俺の口からは、するりとそれに対しての返答が口を付いて出てくる。
「仕方ないさ・・・元々、そう長くない体だったんだ」
「生きたいと願わないのか」
「・・・生きたいに、決まってる。でも、どうあがいても俺はもうすぐ消えてしまうだろう・・・・・・?」
叶わないと知っている。
後悔や未練ばかりだけれど、音素(フォニム)乖離と共に大爆発(ビッグバン)も進んでいる今、消滅は避けることが出来ない。
こうしている間にも、俺の体内音素(フォニム)は乖離を起こし、腕の中の紅が自身に流れ込んでくるのをはっきりと感じる。
だから、困ったように苦笑を漏らした。
「本当はさ、帰るって約束も果たしたかったし、アッシュに、いや、アッシュだけでも日だまりに返してあげたかった。もうちょっと欲をいうなら・・・・・・アッシュと二人で、生きてみたかった」
そういって、手首まで透明になった手を見下ろした。
既にアッシュに触れることさえ出来なくなり、腕だけで彼の体を持ち上げていた。(乖離した手は温もりを感じることも出来ず、全て通り抜けてしまうから)
そう、全て終わったことなのだと。
なにもかもを、流れるままに身を任せようと目を閉じた、その時。
「叶えよう」
何を言われたのか、瞬時には理解できなかった。
閉じた瞼を勢いよく持ち上げ、俺は目を何度も瞬(しばたた)かせてローレライを呆然と見上げた。
「え、は・・・?」
「我を解放してくれた礼をしたい。汝の願いを叶えよう」
「叶えるって・・・何、を?」
「二人のルークが生きることを」
「・・・・・・!!」
ローレライの言葉が、脳内に何度も何度も繰り返される。
驚き過ぎて、ひゅっと息を飲み、呼吸をすることさえままならなかった。
今、彼は何と言った?
聞き間違いではなければ、二人のルークが生きることを、と、確かにそう聞こえた。
それはつまり、「アッシュ」と「俺」の、二人の「ルーク」が。
生きることが出来ると、そういうことで。
「い、いのか?本当に、出来るのか?叶えれるのか?なあ、ローレライ、ほんとうに、本当に出来るのかローレライ!!」
「我が愛し子、我に近き人の子らよ。我を解放した、汝らの祈りならば」
信じられなかった。
半ば吠えるような問い掛けに、彼が肯定の言葉を述べた事が。
無意識に張り詰めていた何かが、ぷつんと切れた。
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