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「では、いくぞ」
ローレライはそう言うと俺達に近寄り、保っていた人のような形を崩した。
彼は俺を守るようにして存在していた、薄い殻のようなものを擦り抜けると、ふわりと、俺達を包み込むようにその第七音素を霧散させた。
きらきらと光る音素が俺達の周りを覆いかぶさるように取り囲み、やがて、自分の体にそれらの音素が入り込んでくるのを感じた。
それはけして嫌な感じではなく、温かくて心地良いものだった。
俺とアッシュの体が、淡く発光し始めた。
先程までの乖離しかけていた時と似ていたけれど、乖離とはもっと別の、暖かで柔らかい感じがした。
「――ルークよ・・・」
緩やかに大爆発が起こっている時、ふいにローレライの声が聞こえた。
「汝らが、どんな世界に流れ着くかは、我も分からぬ・・・ただ、どんな場所でも、強く生きよ・・・・・・無事、二人で・・・・・・共に、生きよ――」
同時に流れ込んできた、ローレライの、惑星(ほし)の記憶。
彼が、ユリア・ジュエと過ごした何千年も前から今まで、この星のいく末を見守ってきた記憶だった。
彼は惑星の最期に詠まれた「ルーク」の誕生の時からずっと、いつでも俺達を見守っていて、いつだって身を案じてくれていた。
ふと、消えていたはずの手が再構築されていくのが、アッシュの体に再び触れることで見なくても分かった。
それから、自分に流れてくる暖かなローレライの気配を感じ取り、意識集合体である彼の、人間らしいその暖かな感情にいっそう涙が溢れてきて、瞳を閉じた。
なんだか一気に涙脆くなったな、なんて考えていると、周りの空気が変わったのを感じた。
そっと目を開くと、目の前に不思議な色をたたえた穴がぽっかりと開いていた。
いきなりの事に思わず周囲を見回すと、相変わらず巨大な瓦礫片が幾つも降り注いでいるだけだった。
変化したのは自分の前の空間だけ。
俺はすぐにその不思議な穴へと向き直った。
穴は縦長く、人一人がすっぽり入ってしまう程の大きさだった。
沢山の淡い色が重なり合い、でも混ざりきれていない・・・・・・何て言うのかわからないけど、パステルカラーの虹のような、綺麗な色をしている。
それが「時空の狭間」への入口だと理解するのに時間はかからなかった。
俺は迷う事なくその穴に近づき、真っ直ぐに前を見据える。
――後戻りは、出来ない。
けれど、もう絶対に後悔だけはしたくない。
そんな思いを胸に、俺は穴に一歩、思い切って足を踏み入れた。
その瞬間、目には見えない、何か強い力によって一気に引き込まれていった。
「う、わ!」
驚いて声をあげたときには、既に周りの景色が変わっていた。
ついさっきまで崩壊していくエルドラントにいたのに、穴を通過した先に広がっていた空間は、なんとも不思議な所だった。
上も下も真っ暗で、夜のような空間に沢山の色の粒が明滅し、ふよふよと漂っていた。
まるで、星空に投げ出されたような気分になる。
光の粒はどこかに流れていっているようで、しばらくして俺も静かにその流れに流されていることに気が付いた。
小川のように、緩やかに、でも確実に流れていく。
体が重力を失ったようにふわりと浮き上がり、アッシュの体も俺の手からゆっくりと離れていった。
アッシュが離れていくのに慌てて手を伸ばし、彼の手を掴んだ。
離れたくない、離れてたまるかと、強く想いを込めてぎゅっとにぎりしめた。
そこから伝わってきた、確かな温もり。
さっきまでのような、冷たく生気の感じられない温度じゃない、確かに生きていると感じられるそれに、心が震えた。
――あたたかい。
当たり前のように指先から伝わる、彼が生きている証。
――生きて、る。
そう、温もりがある。
ただそれだけ、それだけなのに。
その事実が、ぽっかりと空いていた心を満たしていく。
「アッシュ・・・・・・」
未だその瞳は固く閉じられていたけれど、どこか青白かった顔は元の血色のいい顔色に戻っていて、その事実にまた一筋の涙が零れた。
それから、一体自分達はどこへ流されているのかと不安になった。
この不思議な、けれど得体の知れない未知なる空間に、たった二人だけというのがさらに不安を煽っているのかもしれない。
その時ふと、ローレライの言葉が頭を過ぎった。
『あとは全て、流れに身を任せよ』
それを思い出した瞬間、なにもかもがうまくいく気がした。
不安が全て拭えたわけじゃなかったけれど、流れるままに、暫く身を任せてみよう、と。
俺は小さく笑みを作って、アッシュのその手を、殊更強くにぎりしめた。
そして再び旅が始まる
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(2008/5/1)
設定だけ書いて長らく放置していてすみませんでした…!orz
開設したのいつだろうな←(二ヶ月放置)
とりあえず今回はルーク達のトリップ過程を。
ずっと思ってたんだけど、きっとアッシュはルークにお姫様抱っこされたこと根にもつよね(何)
次で沢田家に拾われる……予定です。たぶん!
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