ED話/悲恋/捏造/ネタバレ
アッシュ独白
歌が、聞こえた。
ふわふわと宙に浮いていた意識が歌に引き寄せられていく。
それはまるで、俺を呼んでいるかのようで。
また導いているかのようで。
そうして遠くの方から、柔らかい音色が風に運ばれて、己の耳に優しく響いた。
次いでずしりと、体が重いと感じた。
それは朧げだった意識の中で、久しく感じる事がなかった――地に生きる全てのものが、その足で地に立ち、生きている証拠である、“重み”だった。
それを理解した時、ひんやりとした、しっとりと水気を含んだ風が、肌を嘗めるように撫でていくのをはっきりと感じとった。
そのことに驚いて、俺は自身の四肢を、痙攣を起こしたように一度大きく震わせた。
――生きて、いる?
そう思うと同時に、反射的に目を見開いていた。
そこから脳に伝わってきた映像は、視界いっぱいに瞬く星と、音譜帯。
いつもと変わらない、綺麗な夜空がそこにはあった。
しばし呆気に取られていたが、当然の疑問が浮上する。
自分は確かに、死んだはずだった。
あの白い空間で、己の体にいくつもの剣が食い込み、力が、生気が抜け、自身の音素がレプリカに流れていく感覚を覚えている。
なのに何故、俺は生きている?
そしてここは、一体何処だ。
はっとして、仰向けに寝ていた俺は、上半身を勢いよく起こし、周囲を見渡した。
そこには、辺り一面に咲き乱れる、白い花があった。
――セレニアの花。
その言葉が頭を過ぎったとき、先程聞こえてきた歌、大譜歌が、俺の鼓膜をそっと震わせた。
途端、自分の中で、自分とよく似た声と共に、映像が流れ始めた。
時に声が、ばらばらの言葉が二重に聞こえ、直接脳に響くそれが、心の声なのだとわかった。
「これ、は・・・・・・」
呟き、それが俺の知らない記憶であると気付くのに、そう時間はかからなかった。
そう、それは――俺の居場所を奪い、七年間のうのうと暖かな場所で生き、大罪を犯した、己の愚かなレプリカの記憶であった。
――何故、こんなものが、自分の中に。
流れ込んでくる自分のものではない記憶に、俺はただ、絶望を感じた。
何故そう感じるのか自分でもよく分からなかった。
そんな俺を置いて、いつの間にかその記憶は、障気の中和方法について話し合っていた時の場面が流れていた。
『私は・・・もっと残酷な答えしか言えませんから』
『・・・俺か?ジェイド』
(ああ、でも、本当は、嫌だ。あの人達を殺すのも、自分が、死ぬのも・・・・・・)
(いや、だ、いやだ、死にたく、ない。死にたくない、死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくないしにたくないしにたくないしにたくないしにたくないしにたく、な・・・・・・!死――・・・っ)
レプリカは、いつも、笑顔だった。
それが、心の内ではこんなにも悲痛な叫び声を上げていたのか。
それ以上その声を聞いていたくなくて、咄嗟に俺は両手で耳を塞いた。
だがそんな事をしても、声も映像も止まるはずもなく。
「やめろ・・・」
『俺と一緒に、死んでください!』
(俺の命で・・・世界中の人や、皆を、アッシュを救えるなら、喜んで。ああ、だけど、この人たちを、俺は道連れにするのか・・・俺は、どこまで命を奪えば)
「やめろ・・・!」
『音素乖離に、大爆発、か・・・・・・』
(でも・・・このまま消えてしまうんじゃないなら。アッシュが、せめてアッシュにだけでも、「俺」が居たことを、覚えててもらえるなら・・・・・・俺は、幸せだな)
「っふざける、な!勝手に、てめぇの記憶を押し付けやがって!」
だいたい、大爆発は、レプリカが被験者を取り込む現象ではなかったのか。
「ふざけるな・・・!」
また、場面が変わる。
それは、いつかの夜、情報交換の為に俺がレプリカを呼び出した時のものだった。
レプリカは急いでいるようで、風景が通常よりも速く流れていく。
漸く街の外れに着いたその視線の先には、俺自身が見えた。
レプリカではない、紛れも無い、自分自身の姿。
そのはずなのに、何故か、初めて自分のレプリカを見たときに感じたものとは比べものにならないほどの嫌悪を抱いた。
視線の先の「俺」は、俺・・・否、レプリカを見付けると、眉間の堀を深くして睨み付けていた。
俺自身でさえそれに苛立つ一方、レプリカは何故か、困ったように、それでいて何故か嬉しそうな声で「俺」の名を呼んだ。
それから二言三言言葉を交わし、「俺」が踵を反した時だった。
『なあアッシュ。何度も言うけど俺達と一緒に行動しないか?』
『それこそ何度も言うが、俺はお前らと馴れ合うつもりは微塵もねぇんだよ。ローレライの解放も俺がやる』
『!だ、だから!それは、ローレライの解放は俺が――』
『ごちゃごちゃうるせぇ!俺はもう行く』
そう吐き捨てて、「俺」の背は遠ざかっていった。
残されたレプリカは、その背をじっと見つめたまま動くことはなく。
『だめ、だ・・・』
(アッシュだけは、生きて、ちゃんと、日だまりに帰らなきゃ、だめなんだ・・・危険に身を曝すのは、俺で、十分・・・)
(・・・・・・違う、本当は、ただ、俺が、アッシュに返したいだけ・・・アッシュに、幸せになって欲しいん、だ。だって、)
「レプ、リカ・・・」
『だって、俺、は・・・ア・・・・・・シュが・・・』
(・・・・・・アッシュが・・・大事で、失いたく、なくて)
(・・・・・・違う。大事、なんかで収まる気持ちじゃない・・・これは、そう、たぶん・・・・・・そう・・・)
『すき、なんだ・・・』
「・・・っ!」
『オリジナルだからとか、そんなのじゃない。・・・友愛でも、家族愛でも、ない・・・ああ、そうか・・・・・・これが、好きという、感情なんだ・・・・・・』
「・・・・・・な、に・・・」
『・・・は、はは・・・今更、今更気付くなんてな・・・!』「・・・・・・」
自嘲するように吐き捨てると、視線が星の瞬く夜空へと上がった。
レプリカはそれをしばらく眺めた後、懺悔する、救いを求める罪人のように、静かに口を開いた。
『・・・・・・・・・でも、良いのかもしれない、な・・・アッシュ、アッシュ。俺の事、嫌ってても、いい。だけど、どうか・・・』
「レプリ・・・」
『どうか、忘れないで』
そういってレプリカは、両手を夜空へと伸ばした。
視界いっぱいに広がる満天の星だけが、そこにはあった。
突然の告白に動揺し、けれど痛いほどの悲しみを感じ取って。
「―っ・・・ルー・・・・・・」
『・・・おねがい・・・・・・おれを、けさないで・・・』
「っ!くず、が・・・!誰が忘れるか・・・・・・!」
その言葉に、何故かとてつもない怒りを感じた。
何故かなんてわからない。
ただ、溢れてくる感情のままに俺は言葉を吐き出していた。
「なにもかも、奪ったくせに・・・今更お前はなにもかもを、返すのか・・・・・・いや、それ以上のものをお前は俺に与える気か。誰も、そんなことを望んじゃいない。自分も、お前の仲間も、世界でさえもだ!」
もはや自分で何を言っているかもわからないぐらい、俺は激怒していた。
そんな俺の心情を知ってか知らずか(否、知り得るはずなどないのだが)、レプリカは静かに言葉を、紡いだ。
『アッシュ・・・・・・
あい、してる・・・!!』
「・・・・・・!!」
聞いた瞬間、何かが体を突き抜け、びくりと体が震えた。
ゆっくり、言葉の意味を理解する。
「ルー・・・ク・・・・・・」
そして、今更、今更気付く。
この胸がこんなにも苦しくて、憎くらしくて、でも、あいつの事ばかり頭の中を占めている、理由が。
あまりにも単純。
それ故に気付くことが出来なかった。
――ああ、なんて、簡単な事だったんだろう。
俺は・・・そう、俺はあいつを、あいつの事を・・・・・・
「・・・っルーク・・・・・・!!」
言葉に出来ないほど、愛して、いたんだ。
失って、得たもの
名前を呼んだとき、記憶の中の彼が、微笑んだ気がした。
遅すぎる感情の芽生えに、ただただ、涙が。
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(2008/5/3)
ごめんなさいごめんなさい最後ぐだぐだでごめんなさいorz←
悲恋が書きたかったのに心情が全く伝わってこないっていう。
お粗末様!
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