ラビアレ告白話
※アレンが凄く白い
※リナリーが腐女子
因みにこれが人生初のCP小説です





 この想いを伝える術を知らない事がこんなにも苦しいなんて。

 ああ、神よ。

 なんて残酷。
 なんて仕打ち。




月夜の晩に





 全ての光が消え去り闇のみが存在する中、少年は部屋の窓から外を眺めていた。少年の名はアレン・ウォーカー。光の当たり具合で幻想的な色をする白い髪を持つ、若干15歳の少年であった。

 彼は任務で出掛けているある人物の安否を祈りながら、一睡もすることなく帰りを待ち続けていた。彼が無事でありますように、と祈る事しか出来ない自分に苛立ちながらも待ち続け、また彼に対するこの想いが何なのか疑問に思っていた。
 彼のことを考えるだけで胸がいっぱいになり、頭にかぁっと血が昇る。
 それが何故なのか分からなかったが、彼が傷付くことを何よりも酷く恐れた。
 そして、アレンはこの想いの名を知らなかった。伝える術も知らなかった。
 困惑し、漠然とした不安を抱えながら外を眺めていると、闇によく映えるオレンジ色が見えた。その瞬間アレンは無意識のうちに窓を開け放ち、大声で彼の名前を叫んだ。

「ラビ!お帰りなさい!!」


 ◇◇◇


「いやぁ〜、帰ってきたらいきなりアレンに大声で呼ばれてびっくりしたさぁ〜」

 そんな事をいいながらも自分に向けてくれる優しい笑顔に己の鼓動が早鐘のように鳴り始める。そのことを悟られないように、アレンは両手をぎゅっ、と握り締めた。

「すみません。吃驚させて」

 今更ながらあんな事をした自分自身が可笑しくなり、自嘲も含めた苦笑をしながら謝った。彼が無事だと分かって内心ホッとしていたが、迷惑を掛けてしまったかもしれない、という不安が次第に心を満たしていき、胸が締め付けられ、酷く痛んだ。

「謝らなくていいさ。むしろ嬉しかったかんな〜」
「そう・・・ですか?」

 ――あぁ、よかった、迷惑が掛かってなくって。
 安堵すると同時に湧き上がってきた歓喜に身を震わせ、アレンはにっこりと綺麗な笑顔をその顔に浮かべた。それを見たラビは何か満足そうに頷きながらアレンの頭にぽんと手を置き、本当に嬉しそうにこういった。

「おう!ありがとな!・・・っと、そういやまだ言ってなかったさ。ただいま、アレン」

 その言葉がどれほど嬉しかったか。
 どれほど自分を喜ばせていることか。

「・・・お帰りなさい、ラビ」

 嬉しすぎて、涙が出そうだった。

「あれ?アレン君にラビ、こんな所で何してるの?」

 不意に、綺麗な澄んだ声が背後から聞こえてきた。
 振り返ってみると、そこには真っ黒な髪を二つに結い上げた少女――リナリーが、両手に書類を抱えて佇んでいた。リナリーはなにやら驚いた顔をしていたが、すぐにいつもの笑顔をこちらに向け意味深な言葉を漏らした。

「ごめんなさい、お邪魔だったかしら?」

「・・・・・・は?」
「リ、リナリー!何言ってるんさ!」

 理解が出来ていないアレンと、何故か慌てた様子のラビ。その様子を見たリナリーは、さらにこう続けた。

「あら、ラビったらまだなの?早くしないと神田や兄さんに横取りされちゃうかもしれないわよ」
「リナリー!!」
「可愛いからね。たぶん他の人も目を付けてるんじゃないかしら」
「それ以上言いわないでくれ!!ばれるっばれるから!」
「大丈夫よ。だって鈍感だもの」
「そういう問題じゃ・・・」

 ぎゃあぎゃあと喚くラビを楽しそうにからかうリナリーを目を丸くして見ていたアレンは、いまいち話が掴めなかった。始めのうちは呆然と見ていたアレンだったが、次第に心の中にモヤモヤしたものが広がっていき、胸が苦しくなり始めていた。
 それに気が付いたアレンはとても戸惑っていた。
 リナリーは嫌いではないのに、ラビと二人で話しているのを見ていると苛々が募って、何故かもの悲しくなるのだ。そんな自分がとても可笑しい存在に思えてきて、急にこの場にいるのがいたたまれなくなり、必死に言葉を探して搾り出すように声を出した。

「・・・じゃあ、もうそろそろ僕は部屋に戻りますね」

 そう告げると、アレンはその場を離れるために二人に背を向けた。
 途端、足が縺れてしまい、体が傾いた。そしてゴンッという鈍い衝撃と共にアレンは床とキスをしていた。

「っい・・・!」

 涙眼になりながらもなんとか立ち上がると、ズキズキと痛む頭と、派手に転んでしまったのをラビに見られた羞恥に両手で頭を抱え込んだ。

「アレン!!大丈夫さ!?」
「大変!血が出てるわ!早く医務室に行って手当てを・・・」
「血・・・?」

 リナリーに言われて、ようやく口の中に広がる鉄の味に気が付く。どうやら転んだ衝撃で口の中を切ってしまったらしく、少しだけ喋ると生温かいものが口から顎を伝って落ちていっている。こんなに慌てるぐらいなのだから相当な量なのだろう。
 だが、そんな怪我よりなにより、アレンはとにかく早くこの場から離れたかった。

「だ、大丈夫ですよ。こんなのへっちゃらですから・・・」

 なんとか言葉を発すると、アレンは逃げるようにその場を離れようとした。
 が、腕を誰かに掴まれた為、それは叶わなかった。後ろを振り向くと、綺麗なオレンジ色が眼に飛び込んできた。

「・・・ラ、ビ?」
「・・・・・・」

 俯いて何も言わない彼に不安を覚えたアレンは、おずおずとラビの顔を覗き込んだ。
 そして驚いた。

 いつも優しい顔をしている彼の顔が。
 今は、とても険しい顔をしていた。

 しばらくの沈黙の後、突然、ラビはアレンの腕を掴んだまま足早に何処かへ歩き始めた。

「ちょっ、どこいく・・・」
「口の中切ってるんだから喋るなって」

 言いかけた言葉をその一言で遮られてしまった。戸惑いを隠せないまま、アレンは困惑した表情で前方を歩くラビの後姿を見つめ続けていた。

 そうしてその場に取り残されたリナリーはというと・・・

「私なんかに嫉妬しちゃってアレン君ったら可愛いんだから・・・やっとラビも決心がついたみたいね〜。あぁ!これからが楽しみだわ!監視カメラ回さなくっちゃっ」

 フフフ・・・と怪しい笑みをたたえ、犯罪発言をしつつ、この状況をもの凄く楽しんでいたのだった。


 ◇◇◇


 しばらくして、ラビはある部屋の前で止まった。ラビは部屋の扉を乱暴にバンッと開けると、アレンを押し込むようにして部屋に入れた。何が何だか分からないアレンは、ただされるがままになっていた。
 連れてこられた部屋の中は色々な書類や本が積み重なっていて、所々その山が崩れて床に散らばっており、辛うじてベッドだけが綺麗にみえる、そんな部屋だった。

「ここ俺の部屋」

 短く言われた言葉に、アレンはびくっと肩を震わせた。

 ――何故、彼は自分を此処に連れてきたのだろう。
 普通、こういう場合は医務室に連れて行くものではないだろうか?

 考えれば考えるほど混乱し、頭の中がぐちゃぐちゃになってきて、アレンはパニックに陥っていた。
 ラビは未だアレンに背を向けたままで、それが激しくアレンの焦燥感を煽る。焦りばかりが募っていたとき、唐突に耳に声が届いた。

「ごめん」

 アレンの思考を遮るかのように、本当に、何にも前触れなくいきなりラビは謝った。

「・・・ラビ?」
「アレンが転びそうになったとき、俺がちゃんと支えられてれば、こんな怪我させずに済んだのに・・・ご、めん」
「あ、いや、あれは僕の不注意でしたから・・・」
「っそうじゃないんさ!」

 勢いよくこちらを振り返り、肩を掴まれ壁にダンッと押さえつけられ身動きが取れなくなる。突然のことに、アレンは避けることも出来ず、再び肩を大きく揺らし、ほんの少しだけ息を詰まらせた。
 息を荒げるラビは冷静さに欠けていて、いつもの彼ではなかった。その様子に焦躁が募ってたアレンは、ラビの険しい表情に苦悩や決心、そして不安が混じっている事に気が付けなかった。

「・・・俺、アレンが傷付くと心がもの凄く苦しくなるんさ」

 ――・・・え?

 声のトーンが先ほどより落ち着いたことに一瞬安堵したアレンだったが、彼の言葉の内容に驚いた。

 ――今、なんて・・・?

「アレンのこと考えるだけでドキドキして、アレンが笑ってると俺も嬉しくなる」

「だから、アレンが転んで怪我したのが、もの凄く辛かった。俺が変わってやりたいとさえ思った」

「そう思うくせにアレンをちゃんと支えられなかった自分に腹が立って、つい、大声出しちまったんさ」

 ――・・・じぶんと、おな、じ?

「う、そ・・・」

 知らず知らずの内に、心の中だけで呟いたはずの言葉が口から漏れていた。
 ラビも、自分と同じように感じていた。そのことが酷く嬉しくて、嬉しさのあまりにじわりと視界が歪み、温かい何かが、頬を伝って流れ落ちた。

「・・・こんな嘘ついてどうするんさ」

 そういって苦笑するラビの表情は、先ほどまでの面影は少しもなく、嬉しさと安心が滲み出ているようで、アレンを落ち着かせた。
 嬉しくて、嬉しくて、たまらなくなった。
 アレンはなんとか自分も同じ気持ちだと、同じ想いだという事を伝えたかった。しかし、アレンはこの想いを声に出して伝えられなかった。
 今まで聞いてきた言葉のどれにも当てはまらず、伝える事が出来ない。そのことがとても辛くて、悲しくて、切なくて、涙が溢れた。

 この気持ちを伝えたい。

 だけどもこの想いの名を知らない。
 それがこんなにも苦しいなんて。
 ああ、なんて残酷なんだろう。
 なんて辛いんだろう。

 神は、何故、この想いの名を自分に教えてくれなかったのだろう――

 そんなアレンの心情を理解してか、ラビは優しく、それこそ壊れ物を扱うかのようにアレンを包みこみ、耳元でこう囁いた。

「アレンーー好きさ・・・愛してる」


 “愛してる”


 ああ、そうか。
 アレンは、その言葉が、今まで感じていた想いの名の正体だと、やっと知る事が出来た。
 マナが与えてくれた愛情、自分がマナに向けている愛情とはまた違う。けれど、確かに愛しいと、マナ以上に恋しいと想う、この気持ちは。

「ぼく、も、好き・・・です。す、き・・・・・・あい、してる・・・っ」

 彼が伝えてくれたその想いを、自分も伝えたくて何度も何度も繰り返していった。嬉しくてたまらず下を向き、泣きながら笑った。今までにないほど綺麗な笑みをそのに顔に浮かばせて、幸せを噛み締めた。
 そして、一生懸命伝えた想いが、今まで心の中にあったわだかま蟠りをいとも容易く溶かしていくのを微かに感じていた。
 ふと気が付くと、ラビの手が自分の頬を優しく包んでいた。ラビはアレンの顔を自分の方へ向かせると、照れくさそうにこう言った。

「・・・なら、さ。これからは・・・恋人として、付き合ってくれない?」
「・・・はい。喜んで」

 今まで伝えられなかった想いが通じて。
 通じた事が嬉しくて。

 お互いに微笑んだ後、どちらともなく眼を閉じた。

 空を覆いつくしていた雲の隙間からようやく顔を出した月に見守られながら、二つの影はゆっくりと重なり、やがて一つになった――


 ――この想いを伝える事が出来るのが
 こんなにも嬉しいなんて。

 ああ、神よ

 なんて幸福
 なんて至福――




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(執筆 2007/5/28)
PCサイトが今のサーバーに落ち着く前、辛うじてアップしていたD灰小説を引っ張り出してきてみました。
むしろPCから移植してきてみただけです。
所々変なところがあったので訂正を加えてみたりもしています。
今思ったらずいぶん拙い文章で恥ずかしいですが、今更全部を書き直すのも面倒ですし、これはこれで成長の証と言う事で。すみません。
一応この小説が人生初のCP小説なんですよね…しかも友人達に言われて書いた後編は人生初の裏逝きに。最後力尽きましたが。
というか、リナリー腐女子にしてごめんなさい!!

此処まで読んでいただきありがとうございました!

2010/5/20 微修正(こけた→転んだ に修正。方言だと知りませんでした)




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