Il mio principe.




 ああ、どうしよう、今、とてもあの人に会いたい。


 何故か目が冴えて眠れなくて、くだらないことを考えていたら、ふと大好きな人の顔が思い浮かんだ。
 それからもう、思いが止まらなくなった。


(あい、たい)


 この気持ちをどうしようもなくて、こんな時間だから迷惑だろう、とも思ったけれど。
 いつの間にか手は傍らに置いてあった携帯に伸びていて、“雲雀恭弥”のアドレスを選んでいた。

 そして本文には一言。


“あいたい”


 それだけを、送った。


 こんな時間に起きているはずもないし、起きていたとしても来れるわけがないのに。
 それでも会いたくてしょうがなくて、どうしようもなくて。


(会いたい、あいたい、よ)


 そうして、貴方を思って目を閉じた。
 返ってくるはずのない返事を期待してか、無意識に携帯を握りしめる。
 瞼の裏に、優しく笑う彼の顔が浮かび上がった。
 どうしようもなく不器用で、少し乱暴な行動でしか気持ちを伝えれない、けれどそこがとても愛しい――そんな彼に、今、あいたい。
 目を開いてゆっくり起き上がると、窓に近付き、そっと、内と外を仕切る透明の板に触れた。(それは思っていたより冷たくはなかった)
 硝子越しに人工の光と共に、空に浮かぶ青白い月の光が降り注いでくる。


(こんな月だから、寂しくなるのかな)


 綺麗だけれど、いつもの優しい光と違って、涼しげで凜とした、それでいて少し近付きがたい雰囲気がして、何となく似ているな、と思った。
 窓を静かに開けると、上半身を乗り出して、月に手を伸ばした。
 当たり前だけど、月に手が届くはずもなくって。

 本当に、似ている。

 手をどれだけ伸ばしても、届きそうで届かない所も。
 触れてはいけないような、それこそ自分なんかが触ったら汚れてしまうような気がしてならなくて。
 それでも触れたい、と願ってしまう、そんな所も。




 いつまでそうしていただろう。
 思い出したかのように宙に伸ばしていた手を引っ込めた。
 今更ながら夜の冷気に当てられて寒くなってきた。
 ぶるり、と身震いを一つして、眠れなくても布団に入って寝よう、そう思って窓を離れた時だった。

 握りしめていた携帯が、震えた。

 急なことに驚いて、思わず取り落としそうになった。
 慌てて開いてみてさらに驚いた。
 何故って、それは会いたかった人からの――雲雀さんからのメールだったからだ。
 こんな真夜中に返事を返してくれたことが本当に嬉しくて、思わず口を片手で覆った。
 そして心臓がばくばくと煩いくらいに高鳴った。


(うわ・・・どうしよ、すっごく嬉しい・・・・・・)


 女々しいかもしれないけれど、とにかくどうしようもなく嬉しくて、急いでメールを確認した。
 そこにはいつものように短く、一言だけ記されていた。


“会いに来たよ”

「・・・・・・え?」


 どういうことか分からず思わず声を出したとき。
 急に部屋の中が暗くなったと思うと、背後からふわりと、誰かに抱きすくめられた。


「会いに来たよ・・・・・・綱吉」


 耳元で、綺麗で低いテノールが聞こえ、びくりと肩が跳ねた。

 それはずっと会いたいと願っていた、その人の声で。

 心臓が、止まるかと。


「・・・・・・ひ、ばり・・・さん・・・・・・・・・?」
「僕以外に誰が居るんだい?」


 ゆっくりと後ろを振り向けば、そこには会いたいと願っていた愛しい人が、優しく微笑んでいた。


「ほ、本物?」
「本物だよ」


 こんな時間に、まさか本当に来てくれるなんて思っていなかった。
 薄いパジャマの上からでもわかるぐらい彼の身体は冷え切っていて、この肌寒い中急いで来てくれたのかと思うと。
 嬉しすぎて、不意に視界が滲んだ。


「・・・・・・ちょっと・・・どうしてそんな顔するの。君に泣かれたら困るんだけど」


 本当に困っているようで、いつものポーカーフェイスに焦りが混じっている彼に、俺は思いきり強く抱き着いた。
 きっと今、自分の顔は真っ赤で泣きそうで凄く不細工で、とても見せられた物じゃないだろうから、彼の肩に顔を埋もれさせた。
 声を出したら涙が溢れそうだったけど、どうしても、伝えたかった。


「・・・・・・俺、なんかの我が儘で、会いに来てくれて・・・・・・本当に、本当に、ありがとう、ございます・・・っ」
「・・・・・・馬鹿だね」


 俺が言い終わるや否や、彼は抱き着いた俺の頭をそっと包み込んだ。


「もっと、我が儘言って良いんだよ。綱吉の願いなら、僕はなんだって叶えてあげる」


 彼が酷く優しく言うものだから、愛を囁かれるよりもむず痒くて、恥ずかしくって、もっと顔に熱が集まった。
 彼の服をぎゅっと握りしめ、顔を埋めて幸せを噛み締めた。


「・・・・・・ねぇ、雲雀さん」
「・・・・・・何?」
「      」


 精一杯の笑顔で、思い付く限りの最高の言葉を捧げる。
 言うと貴方は少し驚いた顔をして、けれどすぐに優しく微笑んで、強く強く抱きしめてくれた。


 月の蒼い、とても静かで寂しい夜は

 貴方が傍に、居るだけで


ほら、こんなにもかい





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(2007/8/7)
数カ月前に真夜中にふと思い付いて書いて、一回没にして、そしてまた数週間前に真夜中に思い出して再び書き上げた代物。
つっくんになった気分で書いてました(え)
というかいつものことながら突発過ぎてオチが…っ
てかもーいつかのブログの宣言は何処へやら、ですね(馬鹿野郎!)
でも、追い詰められたらその分他の事に異様に力入るんです…!
受験なんてー!(何)

因みに雲雀さん、近くまでバイクで飛ばしてきてテクテクとツナのお家まで歩いていって、ツナが黄昏てるのを十分に堪能(覗き見)してからお部屋に侵入したんです。
ツナを驚かせたかったのと、黄昏てるツナが凄く可愛くて綺麗だったから固まっちゃった(見惚れてた)んですよ(笑)どうでもいい裏話


題名はイタリア語で「私の王子様」みたいな感じ。




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