「綱吉君、僕が今一番欲しいものが何か分かります?」


 それは唐突に問われた。


「は?なんだよ急にそんなこと・・・・・・」
「いいじゃないですか。で、分かりますか?」
「うーん・・・・・・」


 なにか分からないが、とにかく答えなければいけないらしい。
 骸の欲しいもの・・・と綱吉がそこで思いあたったのは、いつかいったあの言葉。


「・・・・・・やっぱり俺の体じゃないの?マフィアまだ毛嫌いしてるしさ。別に俺の体なんて乗っ取ってもいいことなんて一つもないと思うんだけど・・・」


 欲しいものと言われてもやはりそれしか思い浮かばなかった。
 それは勘弁とばかりに眉をしかめる綱吉に、骸はふわりと微笑み、両手で綱吉の頬を包み込んだ。


「はずれです」


 そういうが早いか骸は綱吉の額に、優しく触れるだけのキスを贈った。
 これまた突然のことで、綱吉はかあっと顔を赤く染めあげた。


「な、な・・・・・・っ?!」


 驚きと羞恥に口をぱくぱくとさせ、何も喋れなくなっている所に、骸は不意に呟いた。


「――君の、心ですよ」
「・・・・・・こ、ころ・・・?」
「そうです。君の体が手に入っても、心が手に入らなきゃ意味がないんです」
「・・・なん」
「僕の」


 何かを言おうとした綱吉の言葉を遮って、骸はそっと言った。


「僕の力を持ってしても、心だけは手に入れることは出来ない。今までそれでいいと思ってました。でも」


 一旦そこで区切ると、骸はほんの少し視線を泳がせて言葉を続けた。


「、綱吉君が・・・君が、いけないんです」


 何かを堪えるかのように一瞬詰まってそういった骸に、綱吉は眉を寄せ、よく分からないといった表情をした。


「骸?それ、どういう・・・・・・?」


 そう問われ、骸は自嘲のような笑みをこぼし、綱吉の頬を壊れ物を触るような仕草で優しく撫でた。

「・・・・・・綱吉君、君はこんな、闇と罪にまみれた僕に光を見出させてしまった。君が欲しいと、復讐の為ではなく、僕自身が君が欲しいと望みました。君にこんなにも惹かれてしまうなんて正直思ってませんでしたし、僕はこの初めての感情に戸惑いました」
「骸・・・?」


 顔を俯けた骸を取り巻く空気が次第に黒く淀んでき、なんとも言えない不安に駆られた綱吉は思わず声を掛けたが骸はそれに気付いた様子もなく続けた。


「君の全てを、僕のものにしたくてしたくてたまらないんです。閉じこめて、鍵をかけて、誰にもさらさないで、僕だけをみて、僕の事だけを考えて欲しいと」
「むく、」
「――――醜いでしょう」


 そういって喉でくっと笑い顔を上げた骸の顔は、ひどく残忍な顔に歪んでいて、綱吉はおもわずびくりと体を震わせた。
 しかし、それとは対照的に瞳には悲しそうな苦しそうな、そんな色がみてとれた。
 触れていた手を綱吉からすっと離すと、先ほどのものが嘘のように消え去り、いつもの顔に戻った。


「すみません、急にこんなことを言ったりして」
「・・・・・・」
「さて、もうこんな時間ですし、僕はもう帰りま」
「っ骸!!」


「・・・・・・つなよし、君・・・?」
「全然、醜くなんかないよ」
「な・・・・・・」


 にを、と、骸は言葉を続けることが出来なかった。
 続ける前に綱吉が己の胸に飛び込んでき、自分をその細くしなやかな腕で暖かく包み込んだのだ。


「醜くなんか、ないよ」


 静かに、ゆっくりとした口調でもう一度言った。
 それは酷く優しく、何か黒いもので満たされていた骸の心をすっと穏やかにさせた。


「・・・・・・だって・・・そんなの、俺だって一緒だから」
「え?」


 唐突に言われたその言葉の意味をすぐには理解することが出来ず、骸はぽかんとした表情で綱吉の見返した。
 そんな骸の様子が可笑しくて、綱吉は思わずくすくすと笑う。
 ひとしきり笑った後、少し恥ずかしそうにはにかみながら、綱吉はぽつりぽつりと語りだした。


「俺さ、骸の事・・・・・・その、すっ好きだし!時々皆に自慢したくなったり、するんだ。でも逆に、自分だけを見て欲しくて、ずっと二人だけでいれる場所に行きたいなぁ・・・・・・って思うこともあるんだ・・・我が儘だとは分かってるんだけど、ね」


 突然の告白に驚きを隠せず何も言えない骸に内心苦笑しつつも、綱吉はさらにこう続けた。


「つまり、俺も骸の心が欲しいってこと・・・なん、だ・・・・・・けど・・・・・・・・・」


 だんだんその声は尻すぼみになり、注意しないと聞き逃してしまう程小さくなっていく。


「・・・・・・・・・とっくに、俺の心は骸が盗っていっちゃってるよ」


 視線を地面に落とし、ほとんど独り言の様に告げた綱吉は、耳まで真っ赤に染めて俯いてしまった。
 そんな綱吉を目を丸くして見ていた骸は、やがてその顔いっぱいに本当に幸せそうな、見ている方まで嬉しくなるような笑顔を浮かべた。


「・・・綱吉君。僕は、僕は君を好きになれて本当によかったです」
「・・・うん・・・・・・俺もだよ」


 そうして全てを満たされたように、幸せそうに肩を並べて寄り添う二人を




午後のかい風が、
優しく柔らかく包み込んだ





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(2007/4/4)
某ボッタクリ鼠王国で暇で暇で書いてたもの。
とりあえず甘甘が書きたかったんデスヨ!(何)

6/24 一部修正
11/15 更に修正

これを書いたときの私の状況
@愛に飢えていた
A萌えに飢えていた
B長蛇の列にいらいらしていた
さあ正解はどれ!(全部)




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