ゆれる。 | ナノ
01

何時もの日常の筈だった。
会社へ行って、嫌味なお局さんに小言をねちねちと言われ
同僚と会社の愚痴を話しながらランチして
明日の休みは何処へ行こうかなんて考えながらお風呂に入った。

何時もと違った事といえば、あゝそうだ。
湯船で居眠りしてしまった事くらい。
母に何時だか湯船で寝るなと怒られた事があったなぁなんて呑気に考えていた。

「お前、誰でィ」

いや、何がどうなって私は男の子と湯船に浸かる羽目になったのだろう。
怪訝そうな視線をむける男の子。
蜂蜜色の髪に整った目鼻立ち。美少年と言った感じだろか。

「おい、聞いてんのか変態。どこから入ってきたんでィ」

変態じゃないが、どう見ても今の私の状況は変質者だ。
事を説明しようにも、いきなりお風呂に現れた怪しい女の話を
信じてくれるような無垢な子供には見えなかった。
少年とは思えない鋭い眼差しに、背筋がぞくりと震えた。
震える手をぎゅうと握り、自分の名前を言うべく口を開く。

「苗字名前、です。気付いたらここに…」

尻すぼみになっていく自分の声を情けなく思った。
こんな少年の眼差しに怯えて物も言えない自分が。

「信じろっていうのかィ」

無理に決まってんだろ、とでも言いたげな顔にやっぱりと
絶望的な思考が頭を支配する。

「無理ですよね。私も同じ立場なら無理だと思います」

声が震えているのが分かる。あゝ、なんて情けない。

「でも他に説明のしようがないと思いますぜ」

「まあ、そうですけど。風呂場に表れた不審者の話なんか信じられないでしょう」

私の言葉に少年は目を丸くした。
そして私に背中を向けて待つように促した。

「いつまでも裸の付き合いしてるわけにいかねェだろ。
姉上に話してくるから待ってろィ」

ありがとう、と言うと少年は黙ったまま風呂場を後にした。
にしても、子供とは思えない冷静さだと感心してしまった。

prev next


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -