幸せを願うよ
「そうか、いいヤツ見つかったか」
自分でそう仕向けたくせに、心が鷲掴みされたように苦しかった。
「あァ。少なくとも万年金欠でどうしようもないグータラよりは何倍もマシさね」
「ひでェ言われようだな、オイ」
酒の入ったグラスをくるくると回しながら、苦笑いする。
これでいい。
家族以上にはなれない。そう言ったときの名前の顔は今でも忘れない。
俺がずっと墓場まで持っていって覚えていればいい。
「こんなどーしようもねぇマダオと所帯持っても、いいことなんかねーしな。
幸せになってほしいんだ、名前に」
そしていつか、アイツのガキが産まれて誰よりも幸せになってくれたらいい。
「馬鹿な男だねェ…」
そんなこと自分が一番わかってらァ。そう言いたいのを酒と一緒に飲み込んだ。
「あの子を笑顔に出来るのは、銀時アンタだけだよ」
ババアの言葉に柄にもなく涙が出そうだった。
「名前にも言われた」
記憶のなかで笑う彼女の笑顔は眩しくて、目を細めた。
「男は勝手だねェ。女の幸せを勝手に決めつけるんだ。
好きでもない男と所帯持って幸せになれると思ってんのかい」
ババアは俺の頭をお盆で叩いたあと、
「あたしゃね、万年金欠で問題ばっかり起こす無鉄砲なヤツでも
娘が選んだ男なら間違いないと思ってるよ。
幸せにしてやっておくれ」
そう言って笑った。そんな顔が名前と被って見えて、いてもたってもいられなくて飛び出した。
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