短編 | ナノ

好きよ。


水道の蛇口を捻ると冷たい水が身に沁みる。まだ冬か、なんてぼおっと思ったりして。水に浸かった4つのお茶碗を眺めて今朝の出来事を思い出す。

「え…今日帰らないの?」

「今回の依頼厄介なことになりそうなんだわ」

ポリポリと沢庵を食べながら言う銀さんに食事をする手がとまる。神楽ちゃんや新八くんが心配しないでと言うけれどやっぱり気掛かりで。けれどそれを悟られないように気をつけてねと笑いかける。

ほっとしたような3人の表情に私も胸を撫で下ろす。

“厄介な仕事”

銀さんがそう言うときは私は着いていってはいけない暗黙のルール。別に私は万事屋の一員でもないし、電話や皆がいないとき依頼を受けたり事務のようなことをしているだけ。

そんな私が何故みんなのご飯を作ってるのか、なんてそんなのここの大家でもあるお母さん。そう、お登勢の娘だから。

意を決して告白してみたりもしたけど、「お前は可愛い妹みたいなもんだから」そう言って困ったように笑うから私はなにも言えなくなって。

わかってたよ、震える声で言うのが精一杯だった。

妹なんて酷な話だ。年も変わらないくせに、いつだって銀さんは私を妹のように扱って。

「俺は家族が欲しかった」と新八くんや神楽ちゃんに出会う前、悪酔いした銀さんの弱音。悲しそうに顔を歪めていたのを今でも覚えている。

「家族できたね、銀さん」

新八くんや神楽ちゃんに出会って暫くたった頃、私の言葉に銀さんは照れ臭そうに笑った。

「家族なら名前やババアもいただろーが」

あの時私は泣いてしまったけれど、嬉しかっただけじゃない。銀さんとは“家族”以上にはなれないんだと言われているようで苦しかった。

それでも簡単に忘れるなんて出来なくて。自分がこんな諦めの悪い女だなんて思わなかった。

ずっとこのままだと、そう思っていた。

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