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  03


忘れていたこと。前世での記憶。
私は会社から帰宅途中通り魔にあったのだ。痛いとか感じるより先に意識がなくなって、目が覚めたら母に抱かれていた。

『あら、この子の目お父さんにそっくりですよ』

『そうかぁ?母ちゃんに似て美人だぞ』

そんな会話が聞こえて、そこからまた私の新しい人生がはじまったのだ。何年かして、弟ができた。同時に母は亡くなった。元々身体は丈夫でなかったから。

何より大切にしてきたのだ、家族を。父が死ぬ間際、『定食屋は閉めろ。代わりにお登勢さんにお前のことをたのんである。泰助は真選組にいけと話してある』そう話していた。
何もかもが新しく始まるはずだった。

泰助はそうちゃんの隊に入るはずで、近藤さんも土方さんも楽しみにしていたはずで。松平さんもちょくちょく店に来て泰助に労いの言葉をかけてくれていた。

「そ…そうちゃ」

真っ黒な隊服にじわりと染みができても、そうちゃんは構わずにずっと抱き締めてくれた。近藤さんも頭を優しく撫でるものだから私は泣くことしかできなかった。

「なまえさん、すいやせん。俺が…俺がもっと早く迎えに行っていれば」

悔しそうに力を込めるそうちゃんに気づいて私は首をふった。

「泰助くんのことなんだが…」

ふと近藤さんの改まった様子に疑問を感じ、思わず体を離してそうちゃんと顔を見合わせる。

「彼を連れていったのは、宇宙海賊の春雨。泰助くんを連れていった理由も店を襲った人物も不明だ」

その言葉を聞いてふと思い出した。
゛ヤツ゛がなんと呼ばれていたのかを。

「神威…確か神威って呼ばれてました」

シーツを握り、最後に見た弟の顔が脳裏に過る。神威と呼ばれたヤツは手についている私の血を弟の顔につけ、ケラケラと笑いながら「いいネその目」そう言っていた。

「俺が絶対泰助を取り戻してきやすから。なまえさんは心配しないでくだせぇ」

優しく笑うそうちゃんに少しだけ安心した。力のない私が行ったところで何もできないのは目に見えてるし、そうちゃんがそう言ってくれるなら大丈夫な気がした。

「ありがとう、そうちゃん」

私が笑って言うとそうちゃんは照れたように笑い返してくれた。彼はこんなに優しくて格好いいのに彼女がいないのは不思議で仕方ない。

そういえば土方さんは、総悟はサディスティック星の王子だって言ってたけどそんな風には思えない。

そういえば新八くんも私といるときのそうちゃん見て引いてたな…。もしかしたらそっくりさんでもいるのだろうか。

「どうしやした?」

心配そうに顔を覗きこむそうちゃんに、そんなことどうでもよくなってなんでもないよ、と返した。

「そういえば明日あたり退院できるみたいだよ」

「そうなんですか?良かった。明日にでもお登勢さんの所に行きたいので」

私の言葉に近藤さんは、
「しばらく寝泊まりはうちの屯所でするといいよ」と言ってくれた。

するとそうちゃんは嬉しそうに、
「じゃあ、俺明日非番だから迎えにきやす。用事にも付き合いやすよ」
と笑って言ってくれた。

「本当に?助かるよ」

近藤さんが「え!聞いてないよ!」って言ってたような気がするけど、そうちゃんはそんな近藤さんを連れて「じゃ明日きやす」と足取りも軽く出ていってしまった。

オレンジ色に染まる病室の窓から、二人を見送り何も考えたくないと瞼を閉じた。

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