01
桜も散り終わり、じめじめした空気が嫌になる。もうすぐ梅雨がくるのだ。
早いもので真選組に来てから明日でもう1週間。女中の仕事は午前で終わるので、神楽ちゃんが迎えに来てくれると電話があった。
早く会いたいと電話越しでもわかるくらい嬉しそうに話す神楽ちゃんに頬がゆるむ。
「いつでも戻ってきてくだせェ」
「ふふ、ありがとう。帰る家があるって嬉しい」
そうちゃんは本当に優しい。私は何もしてあげられないのに、どうしてそこまで優しくしてくれるのだろうか。
頭の隅でそんなことを思いながら、優しく微笑むそうちゃんに微笑み返した。
「なまえー!早く来ないと酢昆布食べちゃうヨー!」
「今いくから待ってー!」
神楽ちゃんの呼び掛けに答えると、そうちゃんは少しだけ真剣な眼差しで
「なまえさんに何かあれば、必ず助けに行きやす」
そう言って私の返事も聞かずに屯所の中へ消えてしまった。
頼もしいはずのそうちゃんの背中は、私の知らない男の人みたいで少し寂しくなった。
聞こえるはずもないけれど、『ありがとう』と呟いた。
新しい生活がはじまる。
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