上へ参ります | ナノ


  01


『俺はひとりなんだ』

『そんなことないよ、私が傍にいるもん』

『無理だよ。俺は遠くに行くんだ』

悲しげに伏せられた瞳。小さな手を私の手で包む。

『気持ちはいつでも傍にあるよ。私、待ってるから』

『なまえ…俺、必ず迎えに行く』

悲しげな瞳は消えて、小さな腕で強く抱き締められる。くすぐったい気持ちに思わず笑顔がこぼれる。

『うん!晋ちゃん、迎えに来てね絶対だよ!』

私が笑うと彼も嬉しそうに笑った。薬指に誓った約束は今でも覚えているのだろうか。

「……懐かしいもの見たな」

まだ肌寒さの残る春。あれから5日が経って、私もなんとか女中の仕事にも慣れてきた。

元々知り合いの多かった真選組も、顔を合わせれば声をかけてくれる人も増えた。

髪結いを手に取り、一つに結い上げる。自然と身も引き締まるような気がした。

私はまだ気付かずにいたのだ。夢のなかに現れる"晋ちゃん"が、本当に迎えに来ることになるなんて予想もしていないのだから。

「元気かな、晋ちゃん」

ポツリと呟いた言葉は誰に聞かれるわけもなく消えていった。




prev / next

[ back to top ]


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -