二日酔いの日は
酒は好きだ。そりゃ大人だし、つまみ片手に愚痴話して日頃のうっぷんはらす。
酒は好きだ。嫌な思い出すら消してくれる。
でも、酒を飲みすぎた次の日は嫌いだ。二日酔いなんかになるし、嫌な思い出が2倍増でフラッシュバックしてきやがる。
「あ、起きたね銀さん」
「…なまえ?」
目が覚めてみると見慣れぬ景色。ああ、そういえば退院祝いだってドンチャン騒ぎやってたっけ。
痛む頭をおさえて起き上がる。なまえがくれた水を受け取り半分飲む。二日酔いの体には水がちょうどいい。
「新八くん、神楽ちゃん連れて帰ったよ」
酔っ払いは連れてけないって、と笑うなまえに「薄情だなー」と返す。
いつの間にか朝になっていたようだ。そういえば着流しを着ていない。そんな俺に気付いたのかなまえ「もしかして着流し?」と。
「もしかして俺、吐いた?」
「あ、お酒を溢したの。でも今日お天気がよくて直ぐ乾いたよ」
銀さんぐっすり寝てましたよ、と言うなまえに時計を見ると1時を過ぎていた。どうやら本当にぐっすり寝ていたらしい。
着流しを受け取り、袖を通す。着なれたはずのそれはいつもとは違う洗剤の匂いだった。
「ありがとな」
「皆にお祝いされてとても嬉しかった」
ふわりと笑うなまえの笑顔は変わらず綺麗だと素直に思った。頭を優しく撫でてやると嬉しそうに頬を染め、恥ずかしげにうつむく。なまえのこの顔が好きだ。
「じゃあ、また後でな」
「うん、待ってるね」
名残惜しげに離れた手を着物で隠して、背中を向けたまま歩き出した。
背中越しに「気をつけて」と聞こえた声に手を上げて。
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