06
ある程度準備が終わり、廊下で待つそうちゃんに声をかける。
「そうちゃん」
「行きやしょうか」
ふわりと笑うその表情はとても穏やかで、思わず私まで釣られてしまう。
「そういえば一週間後に万事屋の旦那達が迎えに来るらしいですぜぃ」
「え、本当?なら挨拶もその時でいいかしら」
「旦那もそう言ってやした」
そうだね、と返して頭に浮かぶのは銀さんのこと。彼は不思議な人だ、人を惹き付ける何かがある。銀さんの周りにはいつだって人が集まる。
彼は困った人を放っておけない所があるらしく、危険なことに巻き込まれやすいらしい。
いつの間にかいなくなって、ふらっと店に来たと思えば傷だらけで。
「怪我しちまった」
とそれだけ。私は手当てする他ないわけで。何を聞くわけでもない私に彼もまた、何を話すわけでもない。
沈黙が苦手だという銀さんだけど、私となら悪くないと言っていた。
彼は思わせ振りな態度をとるのが上手いのだろうか。ろくな恋愛経験もない私にとって銀さんといるのは心臓に悪い。
普段はちゃらんぽらんなくせに、たまに見せる真剣な眼差しとか格好いいと思う。何より困ったときは必ず助けてくれる。そんな人だから、私の心に入り込んでくるのは時間なんかいらなかったのだ。
「じゃあ、行こうか」
頭にちらつく銀色を振り払うようにそうちゃんに笑いかけた。
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