この奇天烈帽子の紅茶狂が不機嫌なのは今に始まったことじゃない。あからさまな不機嫌オーラを放ちつつ、男は机に肘をついた。理由は何だ。大した理由ではないのは分かる。どうせ、今が男の忌み嫌う真昼だからか。もしくはお気に入りの紅茶のルートを、同じく紅茶狂いの某女王に強奪されたか。

「そんな憂いを帯びた表情で、何を考えているのかしら?」

もちろん嫌味だ。この男が帯びているとすれば、憂いなんて繊細なものではなく、ただの殺気だ。しかもここでの殺気は冗談にならない。

「あぁ、お嬢さん。何を、考えているのか。そうだな、強いていえば君の事かな、アリス。」

「へぇ、そうなの」

つまり殺したいのは私という事か。彼の執着は、たまに良識の域を超えている。まぁ、それはあくまで、私の中の良識だけれども。ちょっと他のお友だちと遊んだだけで、地下牢に監禁された記憶もある。

(さて、今度は誰との交友関係を疑っているのかしら?)

なんて考えている私は、まるで、浮気癖が強い女のようだが、決してそんなことはない。そもそも、彼と私の関係が恋人というカテゴリーではないことも確なのに、この執着。

ため息が出そうになるのを堪えて、我に帰る。私に向けて殺気を放っている男の側になど、長居は無用だ。自ら進んで、己の命を差し出すほどバカではないつもりだ。

ご機嫌よう、良い午後を、なんて。ここを離れる際のセリフを考えていると何者かに腕を掴まれた。何者かも何も、一人しかいないけれど。

「どこに行こうと言うんだ?この私を放っておいて。」

にやりと笑う。こういう時の彼の目は、大体笑っていないのだが、今はなんだか楽しそうだ。

「一人、憂鬱なティータイムを楽しんでいる殿方の邪魔はできないわ。」

にこりと笑う。どちらにしても私にとって楽しいことと思えないので、逃げるという選択肢を選ぶ。

彼は、腕を掴む腕を緩めた。ーと思ったのは一瞬で手首を思いきり掴まれると、そのまま引き寄せられた。彼の元へ。

「きゃあ!」

目を直進に向けると、彼の目とあった。そのままキスでも出来そうな距離で止まる。

「二つ返事でYesと答えていただけるプロポーズはどんな言葉を混ぜたら良いだろうか?」

「誰に言うのか知らないけれど、そんなことを考えていたの?」

目はそらせないまま笑って見せる。

「あぁ、ずっと考えていたね。アリス、君への言葉だよ。」

優しい声が耳に届く。ずるいわ。急に。

「私になら、並大抵の言葉じゃYesと答えてあげないわ。」

少し早まった鼓動を気づかれないよう口元に笑みをのせると、彼はは何に満足したのかさらに表情を緩め、私の手首を離し、その手で私の髪を撫でた。

「そうか、ならこの憂鬱はまだ続きそうだな。」

笑みを乗せたままの唇を、私のそれにむけて近づいてきたのが分かり、私はそのまま瞼を落とした。




(そんなこと殺気交じりに考えなくても良いじゃない!)


ーーー

結局イチャイチャしてれば良いよ。











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