背後に壁。彼の右手には刀。幸い鞘から抜かれてはいない。が、鞘に収まっているいないは問題ではないのだ。天才と呼ばれる剣士はあの鞘をいとも簡単に弾き飛ばし、よく手入れされた切っ先輝く刃で私を切り裂くことができる。この状態が問題なのだ。

「なんで、こんなことになったのかって顔してるね。」

彼はにこりと笑う。分かっているなら、今すぐに退いて欲しい。しかし口には出せない。意地悪な彼のことだ。この状態はさらに悪化する。

(だいぶ分かってきたと思う。沖田さんのこと。)

なんてこんな時に思ってしまう。自分にとって安全な状態ではないのに。

(沖田さんは、それでも、何もしない。)

そう私は確信してしまっている。これはただの暇つぶし。病のせいで外に出られない彼の憂さ晴らし。

そうやって彼は私を、己から離そうとけしかける。


「何考えてるのさ、千鶴ちゃんは。」

構ってもらえなくなった子どものように口を尖らせた、彼が言う。

「・・・沖田さんは、優しい人だなって考えていました。」

「君は、頭がおかしくなったのかな。この状態で出てくる言葉じゃないよね。」

彼は怪訝そうな顔をした。私は気にせず続ける。

「その程度の意地悪じゃ、私は沖田さんから離れてあげませんよ。」

強気に笑ってみせた。呆気に取られたような顔をしている。




土方さんが以前、ぼそりと漏らした。仕様もない嫌がらせを沖田さんから受けていたのを助けてもらった時に。“ お前が何度も何度も総司んとこに通っているが、あいつはいつかお前が自分から離れる日を恐れてるんだよ。”

これ以上依存する前に。早めに遠ざけてしまえと。彼女の望むものを与えることはできないのだから。

「あいつは天邪鬼なんだ、しがみついででも傍にいてやってくれ。」

土方さんは、私の気持ちを汲んでくれているのだと思う。思い切り頷いて、私は沖田さんから離れまいと決めた。




「君は、土方さんに余計な入知恵を植え付けられたのかな?」

眉間に皺を寄せた彼が言う。不愉快そうな声色で。

「いいえ、なんにも。」

そう返すと軽くため息をつかれた。

「君も強くなったよね。何か、嫌になるんだけど?」

困ったように笑う彼に、私は、そうですか?と返した。

「一体どうすれば離れていくのか・・・」

なにか考えるように呟いて、彼は私をじっと見る。真顔で見られるとどうしても恥ずかしくて、目を反らしたい衝動に駆られるが、その真剣な眼差しから目を背けないでいる。
動けないでいると、彼の顔が徐々に近づいてくるのが分かった。

「・・・お、きた、さん?」

私は彼の名をちゃんと呼べただろうか。自分の唇が柔らかいもので塞がれた。それが彼の唇だと脳が気付くまで少し時間がかかった。目を丸くしていると、すぅっと私から彼が離れていく。

彼は目を細めて笑っている。私は、まるでまだ唇を塞がれたままかの様に、口を開けずにいた。

「ほーら、あんまり僕に引っ付いてばっかだと襲われちゃうよ?・・・こんな風に。」

笑いながら、再び口を塞がれる。今度は直ぐに離されたが、まだ頭がついていかない。

「千鶴ちゃん、早く離れないと。これ以上いると、どうにかなっちゃうよ?」

そう言った彼に、どことなく翳りが見えた。顔は変わらず笑っているけれど。

「・・・なれません。」
「え?」

「私は離れませんから!どうにかなったって!」

彼の袖をぎゅっと掴む。土方さんと約束したから、しがみついででも傍にいると。

(違う。)

土方さんに言われようが言われまいが、私はこの人から離れない。これは、完全に私の意思。


「・・・ほんと、君って。本当にどうにかしちゃうから。もうダメだよ。逃げ道なんて、作ってあげないから。」

彼は私の手を袖から離すと、私の手はそのまま彼の指と絡められた。彼に覆いかぶされる形で、ゆっくりと体が後ろに傾いていく。

何度となくふる接吻に頭がぼんやりとのぼせていく。恥ずかしくてずっと閉じていた瞼をゆっくりと上げると、驚くほど優しい笑みの彼がいた。次第に彼の唇が、順々に下がっていく。首筋を吸い付く様に与えられた口づけにビクリと体が小さく震える。

「どうしたの?千鶴ちゃん。」

さっきまでの優しい笑みはどこへやら、いつもの意地悪な笑みで彼が言う。

「なっ、何もないですよっ!・・・って、やだっ、沖田さんっ!」

気づくと彼の大きな手が私の胸の上に当てられていた。彼は私の反論を無視して、手はそのままに首筋を舐め上げる。そしてその手は、胸の上で円を描くように、ゆっくりと動きはじめる。

「やっ、おきた、っさぁんっ」

甘い痺れが体を震わせる。同時にこれから起こるであろう事に不安を覚えていた。

「千鶴ちゃん、可愛いなぁ。」

耳元で囁いたかと思うと、彼は私の袴の結びを片手で解きはじめる。器用に解いたかと思うと、そのまま下へおろした。

「男装って面倒だね。なんだか、男に変な事してるみたい。衆道っていうの?」

クスクスと笑いながらいつものように軽口を叩く。しかし、私はそれどこれではない。何も気にしない様子で、彼は私の着物に手を掛け始めた。私は脱がそうとする手を思わず止めてしまう。

「沖田さん・・・、恥ずかしいです・・・」

これ以上は素っ裸だ。これ以上ない羞恥心に、脱がそうとする彼の手を離すわけにはいかない。

「だめだって、そんな顔。なんでそんなに煽るのが上手なのさ?」

どんな顔をしているか分からないけど、私の抵抗は無駄だったようだ。簡単に払いのけ、私は生まれたままの姿になる。

にこりと彼は笑うと、深く口づけを落とす。片手であらわになった胸を包み込む。彼の指が、胸の頂に触れた時、今まで以上に体が跳ねた。そして彼の舌が私のそれを捉えた。

「あっ、ふぁっ。沖田さん、だめです!そんなっ、吸わないで!」

執拗に責め立てられる愛撫に気が遠くなりそうだ。

「だめなんて言わないの。」

胸を弄りながらも、彼の片手は下へとさがり太腿を撫でる。そして股の間へと手を滑らせ、私の秘部に軽く触れた。

「千鶴ちゃん、濡れてる。」

彼が囁いた言葉に全身が熱くなる。私の秘部を割れ目にそって撫で上げると、背中がゾクリとした。不意に出そうになる涙に気を取られていると、彼は私の足を大きく開かせ、頭を股に埋めた。誰にも見せた事のない場所を、これでもかと言うほどの距離で見られている。彼の息がふれる。そして、舌が這った。

「え、やだ!んんっ、ぁあっ!」
「気持ち良い?」
「わかっんない、ですっ!やぁっ、そこで喋らないで、くだ、さいっ、息がぁ」

私の耳まで届く水音。彼の唾液と私のそれが混ざる音。

「やぁっ!」

きゅっと私の一番敏感な場所を摘まれて、その瞬間に指が中に進入していくのが分かった。

「っつう、はぁっ、」
「ちょっと痛いかな、これだけ濡れてても、吃驚するほど狭い。」

でも慣らさなきゃ、と言うと進入させた指を動かし始めた。はじめはゆっくりとだったが、徐々に早くなる抜き差しに声が止まらない。彼が指の関節を曲げ、中で何かを探すように掻き回す。ある場所にたどり着いた時、体が大きく跳ねた。

「ひゃうっ!?」
「あぁ、ここかな。千鶴ちゃんのイイところ。」

楽しそうな彼はそこを重点的に責める。私はギュッと彼の着物を掴んでいた。そうでもしないと体が飛んでしまいそうになる。

「沖田、さんっ、あぁっ、気持ち、いい・・・っ」
「素直だね、千鶴ちゃん。」

指の動きがさらに早まり、私はキュウッと彼の指を締め付けた。

彼の指が抜かれ、体の力が抜ける。彼は濡れた指を自分の口に持っていき、ペロリと舐める姿をぼんやりと見ていた。



「休ませてあげたいんだけどさ、ごめんね、僕はもう限界。」
「え?」

働かない頭では何なのか分からなかったが、彼に掴まれた手の行き着いた先で彼のそれに触れた。

(これを、いれるんだ。)

彼は緩く結んでいた着物の紐をといた。彼のそれが視界に入り、思わず目を閉じる。

「ちゃんと、見て。これが今から千鶴ちゃんに入るんだよ。」
「・・・はい。」

緊張のし過ぎで息を止めているのに気がついた。彼を見ると困ったようかな顔をしていた。

「やめる?怖いでしょう。無理しなくて・・・「大丈夫です!無理なんて、ちょっとしかしてません!」

かぶせるように言った。きょとんとした彼は、私の汗ばんだ額を撫でて、そこに口づけた。

彼の両手が私の腰を持ち上げ、彼の太ももに乗せられた。そして少し身を引いたかと思うと、私の秘部に何かあてがわれる。体が固まった。

「大丈夫だから、力抜いて。このままだともっと痛くさせてしまうから。」
「ぅう、でもっ。」
「心配しないで、ほら。」

耳元で囁いて、そのまま耳朶を甘噛みされる。ゾクリと震えた。瞬間、下半身に小さな痛み。

「ゆっくり挿れるから。」

そう言った彼の顔は、なんだか焦ってみえた。下半身に忍び込む異物に、痛みを伴いながら来る、慣れない感覚に不安になりながら、彼の着崩れだ着物を掴む。

「そこだと、不安定だから、背中に手を回して?ひっかいちゃっても良いから。」

言われるまま、彼の広い背中に手を回した。彼がグイと腰を埋め、裂かれたような痛みが走る。

「痛っ、ぁっ」
「ぜんぶっ、入った、よ。」

見上げた彼にいつもの余裕が消えて、苦しそうな顔をしていた。でもそれが辛さから来ているようには見えなかった。そして私はこの上ない幸福感に包まれた。

そこから先はあまり覚えていない。必死でしがみついていた気がする。目がさめると、眠る彼に抱きしめられた状態だった。普段無防備な状態を晒さない彼の眠る姿に思わず顔が緩む。

「何、ニヤニヤしてるの?」

「わっ、沖田さん!起きてらしたのですか!」

じっと見ていると、バチリと開いた彼の目と合った。

「起きてるよ。何、阿呆面で見てたのさ?」
「阿呆面って・・・。ぐっすり眠ってる沖田さんが可愛くて・・・。つい。」
「可愛いって・・・。君の方が可愛かったよ。僕の下で可愛く啼いてー・・・」
「きゃあ!ちょっと何をっ!」

恥ずかしさに彼の腕を振り払い、ガバリと起き上がる。寝転んだままの彼を見下ろすとニヤニヤと見る。

「意外と大胆だね、千鶴ちゃん。丸見え。」「!!!」

慌てて布団を取り、自分に纏う。彼はつまらなそうに口を尖らせた。

「うぅ、恥ずかしい。」
「気にしなくて良いのに、ほら、僕だって。」
「わぁ!?見せなくて良いですよ!」

わざわざ立ち上がろうとする彼を抑えると、私はそのまま彼の腕の中に引き込まれた。

「沖田、さん?」
「後悔してないかな、と。」

私の頭の上に顎を乗せた彼が呟く。

「後悔なんてするはず無いじゃないですか。すごく嬉しかったです。」

彼の背中に手を回すと、彼の腕の力が強まる。それが心地よくて、顔が綻んだ。「ありがとう」と届いた声がなんだか安心するもので、私はゆっくり瞼を下げた。曖昧になる意識の中でも彼から離れるまいと、背中に回した腕に力を込める。ギュッと掴んだ彼の着物に深い皺を作った。








―――
ゆゆさまへ捧げます。
すごい中途半端で申し訳ないです…




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