「何か期待してるの?」

なんて声をかけてみるけど、君は怒ったような表情で僕を睨む。まぁ、怒っているんだろうけど。でもちっとも怖くなんかない。逆にムッとした顔が可愛らしくて虐めたくなるのは僕の悪い癖。

「こんな夜更けに健全な男の部屋にくるなんてさ、千鶴ちゃん。勘違いしちゃうよ?」

こんな軽口を叩くと、いつもなら顔を真っ赤にして反論してくる。が、今日は何やら様子が違う。

「沖田さん!またお薬を飲まなかったんですね!」

嫌な匂いと共に薬袋を突きつけられる。

「嫌だなぁ、飲んだんだけど?」
「嘘です!」

間髪入れず返答が帰ってくる。今日の彼女は、いやに手強そうだ。手に持った薬を床に並べ、僕が飲みやすいように綺麗に開けていく。ちょっと千鶴ちゃん、石田散薬は違うから。

「そもそも今日は何も食べていないらしいですね!空きっ腹にお薬は、胃を悪くします。おにぎりも持って来ていますので。」

手際良く僕の前に並べ出す。そして、食べるまで退かないというような強気な顔で、僕に握り飯を差し出してきた。

「もう、誰に聞いたの、そんなこと。 昼間は君、一君の巡察についていってたよね。」

彼女は答えなかったが、聞かずとも分かる。大方山崎君だろう。彼も僕が嫌いだろうに、放っておいてくれれば良いのに。土方さんの差し金だろうけど。山崎君も、もちろん彼女も。

「ちゃんと、食べないと。治るものも治りません。」






彼女に監視されるがまま、握り飯を平らげた。そしてそれを待ち望んでいたかのように、彼女は畳に薬を並べ始める。

「あんまり飲みたくないなぁ。」

「今までのをまとめて飲めと言っている訳ではありませんよ。だから早く飲んでください!」

彼女が鬼に見えた。いや、まぁ、鬼らしいけれど。

「そんなに言うなら、千鶴ちゃん飲んでよ。」

「私が飲んで沖田さんの体調が良くなるなら、いくらでもとっくに飲んでいます。」

そう言った彼女の瞳が翳った。口を尖らせたまま。その姿がいやに寂しげに見えた。

「じゃあ、千鶴ちゃん飲ませてよ、僕に。」

いつもの軽口のつもりだった。なんてね、って言って今日は素直に薬を飲んであげようと思っていた。
だけど、千鶴ちゃんは、下に置かれた薬を取るとそのまま自分の口に白湯と一緒に流しこんだ。そしてそのまま、僕の寝着を掴み近づいた。それからは、僕の口に柔らかい感触と苦み。




「苦いよ、千鶴ちゃん。」

僕はそう言うので、いっぱいいっぱいだった。けれどそんな様子は見せられないから、千鶴ちゃんがいつも言うような、意地悪な笑み、を作った。

「・・・わがまま、言わないでください。」

そう呟いた彼女に下を向いていたけど、それでも分かるくらい真っ赤だった。

「こんなことしてまで飲ませろって言われたの?」

まだ下を向く彼女に問いかける。

「誰に言われたわけでは、ありません。・・・これは、私の意思です!」

気がついたら前を向いていた彼女と目があった。変わらず顔は赤いけど真っ直ぐ僕を見ている。その視線はそのままに、まだ残る別の薬を手に取り僕に差し出した。

「飲んでください。」

「あれ?今度はー」

飲ませてくれないのか、と言いかけて止めた。未だ残る彼女の唇の柔らかさと、僕の中で速度を上げる心音に体中の熱が上がる。

(この程度で、僕が。)

このまま死んでしまう気がした。





(だから、残りは自分で飲むよ。)(ここで死ぬには惜しすぎる。)




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