「もしリンたんと1年に1回しか会えないとかだったら、僕は死んでしまうよ!」
各クラスに七夕用の葉竹が配られて、笹に飾るようの短冊をそれぞれ書かされている。いざ願い事と言われても何も思いつかないもので。あんまり真面目に書いたって、クラスメイトにばかにされるのがオチだ。
(世界平和、とでも書こうかな)
そう考え、目の前の薄い黄色の短冊にボールペンの先をつけた。
「ちょっと!リンたん!?無視しなくても良いじゃない!まぁ、そんなリンたんもかわいいっていうか・・・」
雑音がまた聞こえた。さっきの言葉はスルーしたのだが、また無視して、ぎゃあぎゃあ言われるのも面倒くさい。
「うるさいよ、レン君。自分の席で願い事を書いたら良いじゃない。」
「もう終わったよ!もちろん内容は、僕とリンたんの未来がー・・・「せんせーい、鏡音くんが調子悪いそうでーす。主に頭の。」
担任のメイコ先生が不機嫌そうに眉を寄せた。
「鏡音レン、早く席へ戻りなさい。」
メイコ先生はよき理解者だ。私の状況を理解してくれたのだろう。
鏡音レンは、私を見るたびに、好きだ好きだと言ってくる。顔はなかなかタイプなのだが、性格がいろんな意味でイッてしまっている。そんなのに絡まれたら、どんなに顔が良くとも鬱陶しいだけだ。
「メイコ先生という悪しき鬼に2人引き離されようとも、僕は必ず君を迎えに、ーー・・・痛い!!」
レン君がまた戯言を吐いたと同時に鈍い音が教室を支配した。メイコ先生が、レン君の頭をクラス名簿(の角)で叩いたのだ。レン君は頭を抱えてうずくまっている。
(グッジョブ!メイコ先生!)
心で先生を讃え、再び短冊に目をやった。世界平和と書こうとして、机の上にもう一枚の短冊を見つけた。レン君のものだ。
後で返そうと思い、手に取る。人の願いを見るのは如何なものかと思ったが、さっきレン君がいらん願い事を言っていた気がして、つい手にとってしまう。
“鏡音リンの願い事が叶いますように”
レン君を見た。メイコ先生がさっきの鬼発言について説教をしている。まぁ、自業自得だけど。
「こんな願い事をするなんて」
拍子抜けした、少し。けど、なんだか、嬉しいとか。この感情はなんだろう。気付いてはいけない気がする。そう感じて、考えるのをやめた。
(なんで、呼び捨てなのよ。)
自分を落ち着かせるために、心の中で毒づいた。
2010七夕
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