「千鶴ー!お前は何て短冊に書いたの?」

平助君の声に振り返る。今日は翌日に控えている七夕祭りの最終準備を行っている。けれど、ある程度終わったので、今はみんなで短冊にお願い事を書いている最中。平助君はもう書き終わった様だ。

「え!内緒だよ・・・っ、て、わっ!お、沖田先輩っ!だめですよ!」

平助君に見られそうになった短冊を隠そうとした矢先、どこからか来た沖田先輩に短冊を奪われてしまう。

「これからもみんなで仲良く、ねぇ?ここさ、沖田先輩とこれからも仲良くに書きかえた方が良いんじゃないかな?」

「何言ってんだよ!それなら、俺だって・・・その・・・」

「その、何なの?平助くん。」

沖田先輩と平助君か何やら言い争いを始めてしまった。止めに入ろうかと悩んでいると、どうした?雪村、という声が耳に届く。斎藤先輩だ。

「何を揉めているんだ、あの二人は。」

無表情で沖田先輩と平助君を交互に見る。私が、先ほどまでの事を言うと呆れたようにため息をついた。

「総司、短冊を雪村に返してやれ。」

短直に斎藤先輩が言うと、短冊を手にニッコリと沖田先輩は笑った。

「返してあげるよ?もちろん。この、みんなって所を、沖田先輩に変えてからね」

そう言って本気で書きかえようと、修正液とボールペンを手に机に向かった。「ちょっと待てよ!」と言いながら、平助君がそれを追う。
斎藤先輩がまた一つため息。

「雪村、あんたは何て短冊に書いたんだ。」

隣に立つ斎藤先輩は私を見下ろしながら聞いてきた。まぁ、今さら隠す必要もないので正直に答える。

「これからもみんなで仲良く過ごせますように、って書きました。」

我ながらありきたりすぎるとも思ったけれど、本当に今が楽しくて仕方がないのだ。

「あんたらしいな。」

斎藤先輩はそう言うと小さく笑った。

「明日晴れると良いですね!一年に一度しか会えない夫婦なんですから、素敵な一夜を過ごしてほしいです!」

今日が七夕当日だったら良かったのに、と思うほどの空を見上げる。今はきれいな夕焼け空だが、時期に星の瞬く夜に変わる。

「そうだな、どうせなら晴れが良い。」

同じように斎藤先輩も空を見上げた。その姿を横目で見る。校舎の窓から反射した赤い光が彼を捉え、そのまま同化してしまいそうに見えた。

「・・・きれいです。」

ポツリと呟いた。何気なく。
そして、それに反応した斎藤先輩が私の方を向いた。

「俺を見ながら言われても、な。」

「え?あ!」

斎藤先輩を見たまま発言していた事に気付くと、顔が一気に熱くなる。確かにきれいだと思ったが、口にするつもりはなかった。しかも本人を前に!

「ごっごめんなさいっ!夕日を見上げる先輩がとても絵になっていてっ。つい・・・」

多分、私の顔は今は真っ赤だ。耐えきれず下を向くと、斎藤先輩が私の頭に軽く手をのせた。

「俺も、お前が夕日に映えてきー・・・「いい雰囲気の所悪いんだけど、一君。」

斎藤さんが何かを言おうとした時、沖田先輩がやって来た。となりには平助君もいる。斎藤先輩はバツの悪そうな顔で二人を見た。

「なになに、一君。何て言おうとしたの?」

「別に、何も。」

ニヤニヤと笑う沖田先輩に、斎藤先輩は眉を寄せて不機嫌を表した。なぜたか少し顔が赤い。

「そう?顔が赤いよ?夕焼けのせいかな?」

からかう様な物言いで沖田先輩は、斎藤先輩に突っかかっている。二人を見てオロオロしていると、隣に平助君が来た。

「はい、短冊。総司からなんとか取り返したから!」

平助君の手には少しだけくしゃけた私の短冊。内容は書きかえられていない。平助君はこれをがんばって取り返してくれてたんだ。沖田先輩なんて一筋縄じゃいかないだろうに。

「ありがとう、平助君!」

嬉しくて笑うと、平助君も照れた様に笑った。

「ちょっと、次は平助君なの?」

私たちを見て、沖田先輩は口を尖らせた。なんか僕だけ損してるみたいと漏らすと、斎藤先輩が自業自得だと切り捨てた。平助君もそれに同調していた。

(楽しいな。)

そう心で呟いて、平助君からもらった短冊を見た。些細なお願い事だけど、とても大切なお願い事。

「みなさん!短冊飾りましょう!沖田先輩も斎藤先輩も、はい、お願い事書いてくださいね?」

私はそう言って、短冊を飾るため、沢山の願い事をさげた竹に足を向けた。






ーーー

誰落ちという訳じゃないですが、沖田さんだけどうみてもいらない子。


2010七夕







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